第9章 Deja vu
「…トシ…サトシ…?」
俺を呼ぶ声に我に返る。
「ん、あぁ…マサキ…か…」
顔を上げると、心配そうに俺を覗き込むマサキの顔がそこにあった。
「どうしたの、ぼーっとしちゃって…」
「なんでもねぇよ…。それより、もう時間だろ? 作業に戻ろうぜ?」
先に腰を上げた俺の手を、マサキの手が引いた。
そのまま引き寄せられると、人目を避けるように触れるだけのキスを交わす。
「おまっ…、誰かに見られたら…」
慌てて回りを見回す俺を横目に、マサキはベンチから腰を上げ、その場でガッツポーズをして見せた。
「よし、充電完了!」
満足げに笑ってマサキの長い腕が俺の肩に回る。
「さ、行こ?」
「お、おぅ…」
半ばマサキに引き摺られるように工場へと足を向けた俺達の前に、立ち塞がる人影。
「よぉ、ちょっと付き合えよ」
松本…。
「作業に戻るから…」
俺の代わりにマサキが答える。
瞬間、松本の鋭い視線がマサキを睨み付ける。
元々気の小さいマサキは、それだけで縮み上がってしまう。
俺はマサキの腕を解き、その背中を押しやった。
「マサキ、先行ってろ。…俺に用があるみたいだから」
「で、でも…」
言いかけたマサキに、大丈夫だから、と安心させるように笑って見せる。
本当は怖くて仕方ないのに…