第9章 Deja vu
その日を最後に、侑李は俺を避けるようになった。
理由すら分からないままに…
それでも俺は施設に足を運ぶことを止めることはしなかった。
侑李が俺を避ける理由なんて、どこを探したって思い当たらなかったから。
でも、そんな俺を疎ましく思ったのか、施設長は俺に“これ以上施設とは関わるな“と、冷たい無情とも思える言葉を浴びせかけた。
親に捨てられた俺にとって、ソコは楽しい思い出の一つもないけど、“家”そのものだったのに…
それから数年が経った頃だった。
電話の向こうから聞こえてきたのは、懐かしい声だった。
幼さはすっかり消え落ち、少しだけ大人びた声だったが、すぐにその声の主が“侑李”だと分かった。
「兄ちゃん、ごめんね?」
侑李は電話の向こうで声を殺して泣いた。
「兄ちゃん、僕ね…殺しちゃった…」
突然の告白に、俺の時が一瞬止まった。
“殺した、って誰を…?”
“どうして侑李が…?”
頭に浮かび上がる疑問を声に出せず、電話を持つ手だけがガタガタと震えた。
「もう耐えられなかったんだ…あんな生活に…」
数日後のことだった…
侑李が起こした事件がテレビのニュースで取り上げられたのは…
小さな町の、“児童養護施設”で起きた事件。
その時になって、俺は漸く知ることになる。
侑李は身体を売っていたんだと…
施設長の私腹を肥やすために、売春紛いのことをさせられていたんだと…