第9章 Deja vu
結局その日は施設長に頼み込んで、侑李を会社の寮に泊めることにした。
侑李の気持ちに応えた訳じゃない。
何となく侑李を一人にしちゃいけない気がしてたから…
コンビニ弁当で晩飯を済ませ、侑李を寮備え付けのくたびれたベッドに寝かせると、俺はブランケットに包まり、畳に寝転んだ。
「智兄ちゃん…僕ね…」
「お前それ以上言うな。俺さ、お前の気持ちには応えらんねぇから…」
ベッドの上から俺を見下ろし、手を伸して来るのを、俺はやんわりと拒絶する。
「俺さ、惚れてる奴がいるんだ…」
「それでも僕は智兄ちゃんのこと…」
明かりの消えた部屋の中でも、侑李がゆっくりと身体を起こしたのが、軋むベッドの音で分かる。
「ごめんな、侑李。俺、翔意外には考えらんねぇんだわ…」
ブランケットがそっと捲られ、潜り込んできた小さな温もりが、俺の胸に頭を乗せる。
俺は柔らかい髪を指で梳いてやる。
「翔、って言うの? その人…」
「あぁ、櫻井翔…。俺の一番大切な人だ…」
「僕…よりも? 僕よりもその”翔”って人の方が大切?」
子供特有の独占欲。
「大切だよ? でもお前のことだって同じくらい大切に思ってるよ?」
寝巻代わりに着たTシャツの胸に、じんわりと熱い物を感じた。