第9章 Deja vu
侑李は俺が施設を訪ねるのを、それは楽しみにしていたようで…
鬱屈とする侑李を公園へと連れ出しては、自販機で缶ジュースを買い、二人で並んでそれを飲んだ。
たったそれだけのことが、あの時の侑李にとっては、日常を忘れられる唯一の時間だったのかもしれない。
侑李は学校や施設での出来事を、時には楽しそうに、そしてまた時には悔しそうに話して聞かせた。
俺はそんな侑李の話に、黙って耳を傾けた。
ある日の別れ際、いつものように侑李を施設の前まで送り届けた俺は、いつもとは違う侑李の様子に、少しだけ戸惑いを感じた。
侑李の俺を見つめる視線に、ただの憧れとは違う別の物を感じたから。
「早く中入んねぇと怒られるぞ?」
門限ギリギリの時間。
辺りを夕焼け色が包み込んでいた。
「智兄ちゃん、僕…」
「ほら、飯食いッパグレるぞ?」
言いかけた侑李の言葉の先を遮るように言う。
でも侑李は足を止めたままで、その瞳には涙をタップリと浮かべていた。
侑李が俺に何を伝えたいのか、その目を見た瞬間俺は気付いてしまった。
いや、本当はもっと前から気付いていたのかもしれない。
侑李の俺に対する気持ちに…
気付いていながら、俺は逃げていたんだ。
まだ幼い侑李が持つには早すぎる感情が、どうか間違いであって欲しい…そう思っていた。