
第32章 灰羽リエーフの数日〜2025.birthday〜

side灰羽
その場で喜びを叫びだしそうな気持ちを抑えホテルに帰る。先に風呂に入りベッドで黒尾さんやツッキーにプロポーズ成功報告をしていれば、Tシャツ1枚で美優さんが風呂から出てきた。
いつもならすぐに髪の毛の手入れをする美優さん。しかし今日は濡れた髪をタオルで拭きながら俺の方へと寄ってくる。赤く頬を染めながら言いにくそうに唇を引き結ぶ。その唇が少しだけ緩むと、ぽつり、言葉が溢れた。
『髪…お願いしていい…?』
その言葉にベッドから立ち上がると、美優さんの背中に手を添えて窓際の椅子へとエスコートする。美優さんの鞄から必要なヘアケア商品を出してドライヤーのスイッチをいれた。
傷まないようにブラシで梳かし、ヘアクリームやヘアオイルをなじませた髪にドライヤーの風を当てる。ふわふわのウェーブがかった髪の毛を乾かし終わらせると、手触りの良いその髪に指を通す。
「髪の毛伸びましたね。そろそろ梳きます?」
『あ、あのね、』
何かを伝えようとするがその先が言えない美優さん。手を止め顔を上げると、正面の室内を柔らかく映し出すガラス越しに視線が合った。
『髪の毛、ばっさり切ってほしいんだけど…だめ?』
困ったように下がる眉が可愛らしく背後から腕の中に抱きとめると頬に口付けた。
「俺に切らせてくれるんですか?」
『バッサリ切るならリエーフがいいって言ってるじゃない。昔から。』
癖があり悩んでいる美優さんの髪の毛をなんとかしたいと考えたときに、初めてなりたいと思った美容師という職業。年数をこなしやっと1人前と言われる年になった。
そんな俺に任せてくれるのが嬉しくて背後から抱きしめると、伸びてきた指が頬を撫で、ちゅっと頬に唇が触れる。
『リエーフが私のクセのある髪の毛を触ってくれると、コンプレックスだったはずの髪がすごく愛しくなるの。この髪で良かったって思えるんだよ。』
ありがと。
そう俺に伝えてくれることが嬉しくて首筋に擦り寄るとお返しをするように頬に唇を落とす。
ひとつ、ふたつ。
何度も唇を押し付ければ、美優さんも首に腕を絡めて口付けに応じてくれる。
啄むような口付けから唇を食み、そして絡まる舌。
深く絡まり心地よい。
『べっど、いく』
美優さんがそう言ったけれど、甘ったるく絡む舌が離すのがもったいなく、唇を重ね合わせたまま美優さんを椅子から抱き上げた。
