第32章 灰羽リエーフの数日〜2025.birthday〜
ぼろぼろと涙を流す私をベンチに座らせ、その隣に座るリエーフ。周りからの視線から隠すように、それでいて少しでも冷えた体を温めるように上着で体を包みこまれ抱きしめられれば、リエーフの香りと温もりに眉間の力が少しだけ抜けたが、それでも襲う不安に身を縮ませれば、リエーフの手が私の手に重なった。
「美優さん、俺達付き合って何年になります?」
14年。
そう。高校生の頃から14年も隣にいてくれる。
「14年。多分俺って今まで美優さんを蔑ろにした美優さんの親より長い時間一緒にいると思うんです。」
そうだ。
リエーフに気付かされた、側にいる年月。
それに気づき涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げれば、リエーフは柔らかな表情で私を見ていた。
苦しかった。
私を見なくなった親と同じにはなりたくない。
そう思い今まで生きてきた。
だけど、両親と同じ血が流れている。
だから、もしかしたら、リエーフを、生まれてくるかもしれない子供を蔑ろにしてしまうかもしれない。
今はそんなことがなくても、生活が、環境が変わったら、もしかしたら変わってしまうのかもしれない。
そうなったら怖い。
そう、ずっとずっと考えていた。
でも…
唇を開こうとすれば、それより前にリエーフの温かな声。
「親って自分の中の大部分を占めていて、それがいいことでも嫌なことでも美優さんの心にずっと残ってるんだと思うんです。
でも、美優さんのことずっと隣で見てきた俺としては、美優さんはこのままでいいし俺が幸せなお嫁さんにします。」
意思の強い瞳が、私の心を射抜く。
重ねた年月の分積み重ねられた信用、信頼は揺らがない。そう教えてくれているようで、思わず私は頬をほころばせた。
『リエーフはすごいね。』
今まで蔑ろにされ家に寄り付かなかった両親との今までと、リエーフとの今までを比べたら信じられるのなんてリエーフなのにね。
涙でぐしゃぐしゃな顔を上げ、勢いで唇を重ねる。
驚いたリエーフにもう一度口付けると、幸せにしてね、とリエーフにだけ伝わるように呟いた。