第32章 灰羽リエーフの数日〜2025.birthday〜
少しずつ海から離れていく。
チェックアウトをしたあとは特に予定を入れずそのまま家のある方へと戻っていく。
前回は夜に通った首都高を、今日は昼間に。違う景色のようでなんだか面白い。
「美優さん、休んでていいからね。」
いっぱい体力使わせちゃったし。
運転中だから強く言わないけれど、リエーフが言っていい言葉ではない。
朝も結局掻き出すと言いながら2回。急いで朝食だけは食べに行けたけど…
帰りに買ってくれたスタバで許してはいるけれど…
それでもちょっと許せない。
ミルクティに生クリームを追加、はちみつも更に追加。甘々にカスタマイズしたそれをゆっくり飲みながら視線を向ければ、流していた音楽を口ずさみながら嬉しそうなリエーフ。
『…当分しないから。』
「今日やり過ぎちゃいましたもんね。体力戻ったらまたしましょうね?」
…違う。
でも嬉しそうだからいいか。
ミルクティを少しずつ口に含んでいれば不意に思い出したかのように名前を呼ばれる。
「そうだ、今度うちに来てくださいね。」
唐突に言われた言葉に首を傾げていれば、視線を前に向けたまま私に腕を伸ばし柔く頬を撫でる。
「結婚の挨拶、ってやつ」
リエーフに言われたことが現実味を帯びさせ私の心をぎゅっと締め付ける。
でも、不思議と怖くはないし、むしろワクワクしている。
『二人ともびっくりしちゃうね。』
でも、きっと祝福してくれる。それがわかっているから嬉しいんだ。
不安が期待に変わっていく。
むしろ楽しみだと思えるのは、リエーフがずっと待っていてくれたからだ。
ありがとう、リエーフ。
大好きよ、リエーフ。
ふわ、とあくびをすれば、伸びていた手がぽんぽんと頭を撫でる。
「移動中は体休めてください。」
『ん、そうする。』
車内でも寝られるように少し席を倒し横になればすぐに来る眠気。
それに抗わずに微睡むと、未来への期待を胸に浮かべながらゆっくりと瞼を閉じたのであった。
end