第32章 灰羽リエーフの数日〜2025.birthday〜
side 灰羽
欲しいものはずっと変わらない。
俺が欲しいもの。腕の中に収まるそれはもぞりと動き、酔いでとろける瞳をこちらに向ける。
「ねえ、美優さん。」
ずっと欲しくて
まだ叶わないそれ。
来年は、くれないかな。
「美優さん。俺は、今までと、これからの美優さんの人生が欲しい。
俺は欲張りだから、今より確実なものが欲しい。」
含むような言い方をすれば瞳が揺れる。
それを隠すように伏せた顔に屈んで口付けると髪に鼻先を擦り寄せる。
「嫌?」
首を傾げて問いかけると強く、つよく横に首を振る。
『嫌なわけない。でも、』
いつも、そこで終わってしまう。
でも、今日は嫌だ。
「引っかかるのは両親の件、ですか?」
図星をついたようで、びくりと震える肩。
美優さんの両親は家庭を顧みず、美優さんを1人残してそれぞれ生活している。多分、小さい時からずっと。そんな両親しか見ていないから結婚のビジョンも湧かずに不安なのだろう。
名前を呼び、額に口付ける。
不安げな瞳を向ける姿に柔らかく細めた瞳を向けると、頬に手を添えた。
「好きです。」
潤む瞳に口付ける
「出会ってから今までずっと」
溢れた雫に唇を寄せる
「美優さん、俺と結婚して、一生俺のものになって。」
額を寄せて鼻先を擦り寄せると、回された手が俺の体をぎゅっと抱く。
『わ、たし、わかんないっ、から』
涙をこぼしながら、初めての本音を教えてくれる。
『いいっ、およめさん、とか…おかあさんっ、とか…分からなくて…』
こわくて
親みたいに、ならないかって
相手を蔑ろにしないかって
こわいの
呟く声は震えていて、泣きそうな美優さんを強く抱きしめる。
「美優さん、あのね、聞いてほしいんだ。」
なだめるように背中をさすりながら近くにあったベンチへと誘導し互いに座る。そして体が冷えないように肩を抱きながら空いた手を小さな指に絡めた。