第32章 灰羽リエーフの数日〜2025.birthday〜
1時間程度の運転でホテルに到着。先に予約をしていた駐車場に車を入れると荷物と共にチェックイン。部屋に荷物を置くと慌ててまた外へ。
「美優さん、ワールドポーターズまだ開いてるの何あったっけ?」
『さっき確認したけど今だとチェーンのファミレス2、イタリアン1、っ、しゃぶしゃぶ串揚げ焼肉あたり?』
「21時50分か、ギリギリだから急がなきゃですね。」
歩く、というより競歩並みのスピードで横断歩道を進むリエーフにブーツの踵を鳴らし息切れをさせながらついていく…が、普段そこまで運動をしない30歳越えの体力、ついていけるわけがなくて、急いでパーカーの裾を掴むとやっと気づいてくれたリエーフが止まった。
『ごめ…むり…』
「ああっ、美優さんごめん!急がなきゃって思ったから…ちょっと休も?」
リエーフが焦りながら見つけてくれた道沿いのベンチに腰を下ろし、検索していた画面を開きながら息を整えていれば、リエーフがそのスマホを持っていく。
「えっと…焼肉とチェーンのイタリアンは22時すぎても大丈夫そう。どっちがいい?」
『明日食べ歩きでしょ?だったらイタリアンの方がいい。』
整い始めた呼吸と一緒に意見を吐き出せば、緩めのパンツの布を掴んでいた手にそっと手のひらが重なる。すり、と指が趾間をくすぐる指を許すように指を少しだけ開けば、手のひら側に回ったリエーフの手がきゅっと私の手を握る。そしてゆっくりと持ち上げられたかと思えば、そのまま私の甲に唇が触れた。
「時間間に合いそうだからゆっくりいきましょうか。流石にずっといたら冷えちゃうし。」
唇が触れた手が引き寄せられ、そのまま立ち上がる。転ばないようにとの配慮か腰に添えられた手が暖かい。
「いきましょう、美優さん。」
先ほどよりもゆっくりなペースで進み始めるリエーフの横を同じ速度で歩けば、絡まった指がさらにきゅっと握られる。それが嬉しくて笑みを浮かべれば、つられるようにリエーフも笑った。