
第32章 灰羽リエーフの数日〜2025.birthday〜

準備を終え荷物を積み込み助手席に乗る。
『いつも通り安全運転で。』
そう運転手に伝えながら、シガーソケットに差し込んだUSBの差し込み口にリエーフの端末をセットする。リエーフのスマホはナビ代わりなのでスマホホルダーに置くと次は自分。コードを挿す間に駐車場から出た車が暗闇に身を包むと、最近一緒に見た映画の主題歌を流す。それにリエーフが気づいたようで軽く視線を向けて笑みを飛ばす。
「これ、映画館で見たからサブスク入るの楽しみにしてたんですがよかったっすよね。前も思ったけどあの伏線が最後のオチに繋がってるなんて気づかないですよ。」
『ふふ、私もそう思う。私あのシーンがずっと忘れられなくて。』
「あれやばかったっすよね…時間取ってもう一回見たい。」
『もう一回って言えばドラマのキャストが動いてたの見られて嬉しかったなぁ。私最初のドラマの主人公の子が好きで。』
「俺圧倒的に2番目の交番から来たやつ。あの無鉄砲な感じ好き。」
『リエーフはああいうキャラ好きだよね』
ドラマ2作の今を含めて描かれていたその映画はドラマファンからも絶賛され、私達も2作を見返してから映画に臨んだクチだ。そして今回サブスク解禁を記念してまた1作目から見返すほどに好きな作品でもある。
首都高に入る頃に流れ始めた曲は、リエーフの好きなキャラの名前の曲。走り出したくなる…もとい、スピードを出したくなる曲調と同じように少しずつ上がり始めるスピードメーターに思わず吹き出しながら、リエーフが買っておいてくれた飲み物をドリンクホルダーから取り出す。
『リエーフ、安全運転。』
「ん、ごめん美優さん、無意識。」
少し緩んだスピードに乗って流れる景色と音楽。夜のドライブなんて久しぶりで、2作目の主題歌に合わせ鼻歌を歌えば、運転席から伸びてくる手のひらが私の頭を遠慮するように撫でる。
「はしゃいでんの可愛い。でも眠い時は休んでてくださいね。ホテル近くなったら起こすんで」
『リエーフは平気?』
「今のところは。でも腹減ってるんで着いたら飯行きましょう。だと、シャワーは明日の朝かな。あと俺、急いでると朝食の時間とか聞きそびれそうだからそこは任せます。」
『ん、わかった。』
楽しい旅の始まりは軽快な音楽と、海沿いに広がるネオンライト。素敵な旅になると良いな、そう思いながら私はそっと目を閉じた。
