
第32章 灰羽リエーフの数日〜2025.birthday〜

ただいまと開けたドア。静まり返った玄関にいつもより乱雑にパンプスを脱ぎ捨て部屋へと急ぐ。戸締りの点検をしながら慌ただしく家中を走り回っていれば、ぴろんと端末が鳴った。
“車借りました。そっち向かいますね。"
仕事帰りのリエーフからだ。実は今日から2泊3日の旅行の予定を立てていて、リエーフが帰宅時に車を借りにいき、その間に私が出発前の家の点検をしながら待つ予定、だったのだ。しかし就業のタイミングで急遽追加で発注した食材が届き、下処理を頼まれてしまった。いつもなら断ることもできたが、今日は急なお休みが入り厨房はてんやわんや。お休みの人たちも用事ありきでのお休みばかりのため、今いるメンバーでやるしかなく、そんな中の退勤も申し訳なくて…
下処理を終わらせた時点でいつもなら家に着いている時間。急いで着替えて帰宅をしたというわけ。
全ての施錠が済んだことを確認した後、飛び込んだのは脱衣所。面倒くさがって今日着た洋服を脱ぎ捨て脱衣籠に放り込むと、用意した服を着るために自室にダッシュしたのだけれど…
「美優さん用意でき、てないっすね。」
ただいまと開いたドア。開いた扉をリエーフが急いで閉めながら靴を脱ぐ。
『っ、ごめ…』
そのまま部屋に行こうとするが、それより素早いリエーフに捕まり腕の中に引き込まれる。
「もー、急いでてもそれは駄目ですって。外出れなくなっちゃうじゃないっすか。」
『ごめ…リエーフ?』
申し訳なくなって謝れば、触れ合う体の中心が体に押し当てられ、伸びた手が柔く尻を撫でる。ぴく、と肩を揺らしながら顔を上げると目の前には舌なめずりをする姿。体を離そうとするがそれを拒むように強く抱き込まれてぎゅううと尻を揉み抱く。思わず漏れた声に口を噤めば小さな笑い声。恥ずかしくなり胸元を拳でぽこぽこと叩くと、リエーフの笑い声が大きくなる。
『リエーフのばか。』
「そんな格好で出迎えてくれる美優さんが悪いんじゃん。ここで抱き潰したくなるから早く着替えてきて?」
再び頬を赤らめれば再びの笑い声に頬を膨らませる。そのまま部屋の扉を開けば後ろから名前を呼ばれて振り返ると、今度は柔らかな微笑みが私に向く。
「美優さん、可愛くしてきてね?」
その言葉にふは、と笑みを溢せば、部屋に入る前に背伸びをし頬に唇を押し付けた。
『当たり前。リエーフも格好良くなってきてね?』
