第30章 夏、避暑にて。
インターチェンジを降りて数分。お店の近くのパーキングに車を停めると、冷えた車内から外に出る。
「あっつ…」
リエーフの呟きに同意をしながら一緒に歩けば、到着するパンケーキ店。タイミングが良いのか、そこまで待たずに席へと通される。
メニューを見れば、期間限定やあまり見ない味にいつものようにうんうんと悩む。リエーフは早々に決まったらしく、隣で悩む私のことをじい、と見つめてくる。
「美優さんは今日は何で悩んでるんですか?」
『ん、とね。ロイヤルミルクティーと、モモとアールグレイのやつ。』
「どっちも美味そう。じゃあどっちも頼みましょう?」
決められない私を甘やかすように、リエーフはボタンで店員さんを呼ぶ。私が迷ったデザートを2つ、そして釜揚げしらすとカラスミのパスタを注文。全てがテーブルに揃えば、パンケーキ2種類が私の前に並んだ。
「美優さんは食べられる分だけ。無理はしない。」
『わかってる。…パスタも1口もらっていい?』
「喜んで。」
控えめにお願いをした私に微笑んだリエーフは、パスタを器用にフォークに巻きつける。そして私の方にそのまま差し出した。
リエーフとのこういうやりとりももう10年以上。差し出されたフォークに近づくと、そのまま巻かれたパスタを口に頬張る。新鮮な釜揚げしらすの濃い味とカラスミがマッチして口の中に広がっていく。地元の小麦で作られたパスタ麺もそれ自体から甘味が感じられて思わず頬が緩む。
私の表情で美味しいことを理解したらしいリエーフはそのまま麺をフォークで巻き取りぱくぱくと食べ進めはじめた。
メニューを見た時にパスタやオムライス、カレーなどの美味しそうな主食はあったけれど、夜ご飯を考えるとちょっと無理…だから味見をさせてもらえて本当に良かった。
この味付けなら家でも近いものが作れそうだとスマホに軽く打ち込むと、目の前に並ぶデザートに向き合った。