第29章 黒猫と三毛猫、夏の戯れ 2023
「あれ、なんだと思う。」
食事の後に出されたクエスチョン。
玄関に置かれた大きな袋に入った"それ"をてつろーさんは指差す。そこまで遠くない実家から距離からやけに大きな荷物を抱えて帰って来たから気にはなっていたんだけれど…
にまにまと笑みを浮かべながら大きな袋からてつろーさんが"それ"を取り出すと、私は思わず目を輝かせた。
「ビニール、プール…!!!」
子供が2人入れれば十分なほどのビニールプール。話を聞けば、同時期に帰省していたお姉さんがくれたのだと言う。
「ちょうど必要だなって思ってたんだよ。」
てつろーさんが担任しているクラスでの親子行事で縁日風の催しをやるらしく、ちょうど必要になったからと引き取って来たようだ。
「穴とか空いてないですかね。」
「んー、わかんねえ。とりあえず膨らませてみるか。」
どこかにあったはず、とてつろーさんは押し入れをゴソゴソと漁る。見つけ出したのは空気入れ。それを空気穴に刺すと足踏みで空気を詰め始めた。
2人で交代しながら足踏みすれば、溜まっていく空気。程よく空気を入れていけば、2人でプールの周りに穴がないか確かめる。念のためにベランダで水まで張って確かめたが漏れはなし。猛暑の中、再び汗だくになりながらの作業にきっと私たちの頭は浮かされていた…んだと思う。
「…入っちまう?」
暑い中にキラキラと光を受ける水面がとても綺麗で、誘惑に負けた私もこくりと頷いていた。