第29章 黒猫と三毛猫、夏の戯れ 2023
猛暑、酷暑の夏。
キャリーバッグを引き汗に塗れながら帰宅すれば、数日部屋の主がいなかった部屋の中は蒸し風呂状態。しかめ面でサンダルを脱ぎ捨て急いでエアコンと扇風機のスイッチを押す。
汗で湿って張り付く洋服を脱ぎ捨てキャリーの中の洗濯物を洗濯機に入れれば、洗濯スタート。ついでにシャワーを浴びれば、その間に部屋は涼しくなりやっと一息。
胸パッド付きのキャミワンピースを着て荷物を整理していれば、玄関に物音。作業を一時中断し玄関に向かえば、先程の私と同じで汗だくのてつろーさんが靴を脱いでいた。
「あっちー、汗止まんねえ。」
「お帰りなさいてつろーさん。洗濯待ってればよかったー。今すすいでるから終わるまでもう少し時間かかっちゃいます。」
「じゃあ俺のは夜まとめてするわ。どうせまた汗かいちまうだろうし。それよりもシャワー浴びてえ。汗やばすぎる。」
ちらりと私を見るてつろーさん。家着なのを見つけると、口元がにまりと持ち上がる。
「あーあ、一緒にシャワー浴びたかったのによ。」
狙うような視線。
何年経っても慣れないその視線に頬を染めると、照れを隠すようにふいとそっぽを向く。
「お昼ご飯、簡単だけど用意しておくから…お風呂行って来てくださいっ!」
私の表情と声音に相変わらずの不細工な笑い声。
荷物を置き、部屋に入って来たてつろーさんは自室に部屋着を取りに行くと、私の頭を撫でて浴室に向かう。その背中を視線で追いかけると、一度向かった浴室からひょこっと顔を出すてつろーさん。
「いやらしい視線送るんじゃないよ。莉奈チャンのスケベ。」
「っ!スケベじゃないもんっ!」
首に巻いていたタオルを顔面に向けて投げつけるけど大したダメージではない。投げつけたタオルを上手に足でキャッチしたてつろーさんは再びぶひゃひゃ、と不細工な笑い声を上げながらお風呂へと向かった。