第27章 灰羽リエーフの1日 2019
PM21:45
駄目じゃないでしょう、そう問うた言葉。
美優さんの言葉を待ちながら抜き差しを進めていれば、いつもとは違う絞り出すような声。
「ごめっ、なしゃ…」
「だまってて…」
「っあんっ、会場とのっ、連携がひつよ、で」
「やっ、くんと連絡、しててっ」
「うちあわせで、 あっててぇ」
「け、たい…みせれるからぁ…」
「りえ、ごめ」
「ごめ、なさ」
喘ぎと混ざった謝罪に言葉を発せないでいると、ひく、ひく、と美優さんの声が震える。
「ごめ、なさい」
「はなれて、いかな、で」
「ごめん、なさい」
「ごめん、なさい」
悲痛な叫びにふと思い出す美優さんの家庭環境。
謝ることでしか、保てない精神。
謝っても、謝ってもきいてもらえない言葉。
届かない言葉に
心を閉ざした過去
その苦しげな声と言葉に俺は美優さんの中にいた自身を引き抜き体を抱きしめる。
「美優さん、ごめん。」
「俺も、言い過ぎました。」
「ごめんなさい。」
美優さんが逃げていかないように、壊れてしまわないようにぎゅっと抱きしめる。
優しく、やさしく顔中に唇を触れさせ涙が溜まる瞼に口付ける。
「ごめ、なしゃい…ごめんなさい…」
謝ることでしか
謝ったって
何も改善されなかった
苦しくて心でずっと泣いていた
美優さんの心の叫び
縋り付く美優さんを強く抱きしめやさしく背中をさすり大丈夫と伝えていれば、美優さんは泣き疲れたのか腫らした瞼を閉じて寝息を立てていた。
力尽きた美優さんの服を整えベッドに運べば、美優さんは小さく体を丸めて眠る。
スーツをハンガーにかけ部屋着に着替えると美優さんのいるベッドに潜り込んだ。
怖いんだろうな。
人が遠ざかって行くのが。
どうしたら美優さんを安心させられるんだろう。
考えれば考えるだけ分からなくなる。
「美優さんの心の中が覗けたらいいのに。」
できるわけがないことを呟き、布団に潜る。
小さく丸まって眠る美優さんを抱きしめると、俺も目を瞑り襲い来る眠気に飲み込まれるようにして俺は眠った。