第27章 灰羽リエーフの1日 2019
AM11:11
「…は?」
黒尾さんに連れてこられたのはスーツのお店。
疑問しか浮かばない俺をよそに黒尾さんはさっさと店に入って行く。
いらっしゃいませ、と店員さんが俺たちに向かって会釈をする中、黒尾さんが胸ポケットからカードのようなものを出し店員さんに渡す。
「多分灰羽で予約お願いしてると思うんですが。」
「承っております。え、と。」
「ああ、彼です。お願いします。」
営業スマイルの黒尾さんに背中を押されて店員さんの前に押し出されれば店員さんがにこりと笑った。
「かしこまりました。では、灰羽様どうぞ。」
理解ができていない。
どうしてこの店に来たのか、何故俺が店員さんに奥に連れていかれそうになっているのかも。
「ちょっ!ちょっと待ってください!!説明してください。」
店員さんを止め、黒尾さんに説明を求めると黒尾さんは苦笑し、店員さんに話をすると下がらせた。
「ほら、これ。」
黒尾さんが見せてくれたのはオーダーメイドスーツの申し込みのポストカード。
「お前さ、既存サイズのスーツないからって体に合ったサイズのスーツ持ってないんだろ?」
確かにジャケットとパンツの色を変えたり丈の長いスラックスのウエストを詰めたりと既存のものを直したり上手く着れるように調整しているけれど…
「だからって黒尾さんが…」
そんなこと心配する必要はない、そう言おうとすればいきなり黒尾さんがぎゅううと鼻をつまむ。
「俺は微塵も興味ねぇよ。美優だよ美優。」
鼻を摘まれたまま問いかければさっき言ったろ?と一蹴され、店員さんを呼ばれてしまった。
「1着は丈合わせ、もう1着は灰羽様のお好きにされて良いとのことでしたので一度フィッティングをお願いします。」
訳のわからないまま俺は店員さんの後をついて行ったのであった。