第27章 灰羽リエーフの1日 2019
PM09:14
目の前で閉まったドア。
現実味がなくて止まってしまった足。
何?
どうして?
何故?
さまざまな疑問が頭に浮かび、足が動いたのはしばらく経ってから。
「みゆさんっ!」
ドアを開け共用廊下に出たけれどとっくに美優さんはいない。
追いかけるのが遅かったのはわかっているけれどそれでもまだ間に合う気がして、スマホと財布、家の鍵をスウェットのポケットに突っ込みサンダルをつっかけて走り出した。
近くのコンビニにもスーパーにも居なくて、一度時間が知りたくてスマホを見れば着信が一件。
慌てて確認すればそれはなぜか研磨さんだった。
すぐにかけ直せばすぐに通話になる電話。
「もしも「リエーフ馬鹿なの?」
…流石研磨さん、情報が早い。
「…返す言葉がないです。」
「美優、泣いてた。」
研磨さんの淡々とした声に、折れそうになる心。
悪いのは俺だ。
俺が美優さんを傷つけた。
分かっているのだけれど、勢いづいて口から出てしまった言葉は取り戻せない。
「美優さん、研磨さんの所っすか?」
「ううん、今は一緒じゃない。リエーフが絶対わからない場所にいるから探しても無駄だよ。」
研磨さんが一緒だったなら安心だ。
多分音駒の誰かと一緒にいると思うから。
「研磨さん、伝言頼んでもいいですか?」
「やだ…」
「ちゃんと頭冷やすって伝えてください。」
いやだって言ったじゃん…と不満そうな声が聞こえるが、研磨さんはちゃんと伝言してくれる。
わかってるからこそお願いしてるのだ。
「今日は頭冷やして明日探し出します。そんで直接謝ります。」
「そうして。じゃないと美優奪っちゃうから。」
怖いことを呟いて電話を切る研磨さんに小さく笑うと、俺は家に戻りキッチンに置きっぱなしになっていた美優さんが作ってくれていた夕飯に手をつけたのであった。