第5章 十四松にファンファーレを
十「おはようオードリーヘップバーン!こんなところで何してるんだい?そういえば、予定があるって言っていたね!」
主「お、おはよう…。出かけなきゃなんだけど、電車が止まってるから、今タクシー待ちなの」
会話をしただけなのに、十四松くんの追っかけ達の目が怖い。
みんな一体どこから集まったのかというのは置いておいて、十四松くんの腕を掴んでいる人や、肩に頭を預けている人までいる。
主「…すっかりモテモテだね」
十「もしかしたらキミに会えるかなってそこを歩いていたら、沢山の子猫ちゃん達に出会えたんだ」
主「ふーん」
主(あれ?わたし、どうしてヤキモチ焼いてるんだろう…)
十「よし、子猫ちゃん達、僕はこれからこの子を送り届けるから、ここでサヨナラだよ」
十四松くんはそういうと、わたしの前に跪き、手の甲に口づけてきた。
主「えっ!?な、何、急に!?」
女「イヤーッ!十四松様!」
女「そいつから離れてー!」
十「コーラッ、レディがそんな事言ってはダメだよ?」
十四松くんが立てた人差し指を、女の子の唇に軽く当てると、またしても女の子は鼻血を出して倒れる。
主(また殺人フェロモンの犠牲者が…)
涼しげな顔をして十四松くんはこちらに向き直った。
十「僕の一番の仕事は、キミを笑顔にすることなんだ。さぁ、僕の背中に乗って?」
主「せ、背中!?」
十「早く!時間が無いんでしょ?…しょうがないお姫様だね。ほらっ!」
主「キャッ!」
十四松くんがわたしの足に手をかけ、無理やりおんぶの体勢になる。身体が密着して体温を感じたかと思うと…
ヒュンッ
わたしの身体は宙に浮き、さっきまでの人だかりを背にしていた。
十「カボチャの馬車ってわけにはいかなかったけれど、僕の背中も乗り心地良いでしょ?さぁ、行き先は?」
主「…う、うん…。◯響ホールまで、お願いします」
十「オーケー!飛ばすからしっかり掴まってて!」
主「…ありがとう!」
肩にキュッとしがみつく。
こうしてわたしは、高鳴る胸の鼓動を感じながらオーディション会場に向かったのだった。