第5章 十四松にファンファーレを
十四松視点
練習を終え、僕達は楽器を片付けていた。
僕は野球のユニフォームに着替え、ペットボトルの蓋を開ける。
十「フゥッ、美味しい…」
炭酸水は、喉に潤いと微かな刺激を与えてくれた。
十「ほらっ、主も飲んで」
主「わたしは…いいよ」
十「いいから、ほら…ねっ、スッキリして美味しいでしょ?」
飲みかけのペットボトルを傾け、彼女の唇に注ぐと、カワイイ顔を真っ赤にして飲んでいる。
主「あ…ありがとう…」
十「礼を言うのは僕だよ。その顔が見れたからねっ。さて、これから何をしようか?トスバッティング付き合ってくれる?」
すると、彼女が困ったような表情になる。
主「ゴメン、疲れちゃったから、今日はもう帰ろうかな。残業がキツかったから、ヘトヘトなの」
十「そう。じゃあ家まで送って行くよ!少しでも一緒にいたいんだ!……いいかな?」
十(この姿でいられるのはたったの3日間。少しでもキミとの距離を縮めたい…!)
主「うん、わかった」
十「ありがとう!」
彼女の楽器ケースを持ち、ウインクをすると、疲弊していた表情に幾分か笑顔が戻った。
・・・
帰り道、駅前を通り過ぎると、またもや女の子達がぼくに集まってきた。シャッター音と黄色い悲鳴に包囲される。
十「コラコラ子猫ちゃん達、道を開けてくれないかい?彼女疲れているんだ」
女「えーっ、なにその女ー!」
女「あたしも疲れたー!抱きしめてー!いたわってー!」
主「……」
十(いけない!主ちゃんがグッタリしている!よし!こうなったら…!)
僕は楽器を肩にかけ、彼女をお姫様抱っこした。
主「わっ!ちょ、ちょっと!何なの!?」
十「主、しっかり掴まってるんだよ?」
深呼吸を一度してから、僕は天に向かいジャンプする。
主「えぇっ!?キャーーーーッ!!!」
そう、僕は空を飛んだのさ!これなら誰にも邪魔されない。
怯えているのか、彼女はすがりつくようにピッタリとくっついてくる。
主ちゃんの体温をこんなにも近くで感じる。なんて…幸せな時間なんだ…。