第5章 十四松にファンファーレを
野球帽を見ていたら、ふとずっと抱いている疑問が顔を出した。
主「…十四松くんは、野球大好きなのにどうして試合に出ないの?」
十「えっとねー、追い出された!」
主「追い出された!?」
十「たのもーって入ったけど、ダメって言われた!」
主「えーと、メンバー募集とかに応募しなかった…のかな?」
十「うん!」
主「そりゃあ追い出されるって!もうっ、本当に自由人だねっ」
十「でもぼくね、素振りだけでも楽しいよ?」
主「あははっ、見てれば分かる」
わたしも昔はトランペットを吹くだけで幸せだった。
音が出るだけで胸が弾んで。
けれど今は楽しさよりもプレッシャーの方が大きい。
もちろんそれは、お金を貰う立場になったからだろうとは思うけど…。
十「主ちゃんもね、野球応援吹いてる時すんげー楽しそうだよ!」
主「うん!とっても楽しい!」
十「オーディションで野球のファンファーレ吹いたら?きっとみんな楽しいよ!」
主「そ、それはちょっと無理かな。曲決められてるし」
十「えーっ!からのボゥエッ!!」
また目を飛び出させて変顔をしている。
主「ふふっ、十四松くん良いこと言うねっ!」
主(受かりたいから吹くのではなくて、楽しんで吹く…。この違いって大きいような…)
十「あははーそうかな!」
主「でも、難しいな。いざ本番になれば萎縮しちゃうし…」
十「……」
主「まずは、技術的な問題はクリアーしないとだよね!そこがスタートライン!!わかってても、なかなか上手くいかないけどさ…」
十「……」
主「ねえっ、十四松くんも草野球の選手募集応募してみたら?ネットで調べたりしてさ!なんなら手伝うし……って、十四松くんっ!?」
直前まで会話をしていたのに、隣から寝息が聞こえてくる。
そうっと覗き込むと、口を開いて気持ちよさそうに寝ている。
主(本当に不思議な人だなぁ。…わたしも眠くなってきちゃった。このまま少し寝ようかな
…)