第5章 十四松にファンファーレを
あれから、わたしと十四松くんは河川敷で見かけるたびに時間を共にした。
歌って演奏するだけでなく、素振り、トスバッティングの手伝い、お散歩、草野球観戦などなど…河川敷内限定のデートは多岐にわたる。
十四松くんはかなり変わっているけれど、天真爛漫で子供のよう。20歳を超えているとはとても思えない。
今日も二人で草むらに背中を預け、青空を仰ぐ。
十「青いねー」
主「雲一つない快晴だね。風も気持ちいい…。イヤなこと忘れられそう」
十「うんうん」
主「仕事のストレスとかさ…」
十「うんうん」
主「…十四松くんは、イヤなこと無いの?」
十「うーん、わかんない」
主「そっかぁ」
主(十四松くんだもんね…)
十「遊べなくなるのはイヤだなー」
主「そ、そうだね」
十「ねーねー、主ちゃんのお仕事ってラッパ吹きなの?」
主「え?えーと…。微妙…かな」
十「ビミョー?」
主「うん。一応演奏活動はしてるけど、あんまりお仕事の依頼がこないんだ。だからコンビニでバイトもしてるよ」
十四松くんになら話してみよう。わたしの夢を。
主「…本当はね、プロのオーケストラに入団するのが夢なの。今度またオーディションがあるから、受けようとは思っているんだけど…」
十「へー!いっぱい働いてすごいねっ!」
主「そういえば、十四松くんのお仕事は?」
十「ボゥエッ!!」
わたしの質問に対し、謎の奇声と変顔で返してきた。
主(き、聞かれたくなかったのかな…?ってことは、働いてないのかも。で、でも、十四松くんだもんなぁ…ありえるありえる)
『十四松くんだから』は魔法の言葉だ。この一言で全て納得してしまう。
主「もうっ、そうやって笑わそうとして!…実は、十四松くんには感謝してるんだ…。最近練習行き詰まっててさ。だから、こうしてのんびり過ごせるとホッとする」
十「あははっ、やったぜっ!!」
そう言うと、野球帽を指でクルクル回し始めた。なんだか犬が尻尾を振っているようで、その仕草にクスッと微笑む。