第4章 ひとりぼっちヒーロー 一松
数分後…
一(よし…いない…)
あの子が店長とレジを交代したのを見計らい、おれは並んだ。
さっきの手前、ちょっと気まずかったから。
今日の戦利品は、猫缶1ダースに、にぼし。
けっこう奮発した。
・・・
店長「ありがとうございましたー」
帰る前にあの子を一目見たかったけれど、レジに戻ってはこなかった。
避けた事を少し後悔しながら店を出ると…
主「あっ、さっきのお客さま!ちょっと待ってくださいっ!」
一「!?」
あの子がおれを追いかけて店から出てきた。
おれは、聞こえないふりをして、振り向かず歩き続ける。
だけど、早足で来たその子にあっという間に追いつかれてしまった。
いや、正直に言うと、歩くペース落としたけど…。
主「ハァ…ハァ…これ、よければどうぞっ」
店のビニール袋を手渡される。中を覗くと…
一(猫のエサ…こんなに、たくさん…)
一「……」
主「試供品なんです。いつもうちで猫のエサ買ってくださってますよね?さっきのお礼も兼ねて…。店長にはナイショですよっ」
一「っ!!」
一(…ど、どうする!?返事しないと…!)
だが、気持ちに反し緊張して声が出ない。
一「……べ…」
主「べ?」
一「…べつに…いらない」
主「えっ?」
一「………」
一(あーーおれ何言ってんのー!!??せっかく話せたのに…!)
主「わたしの気持ちなんで、そう言わずに受け取ってくださいっ!どうぞっ!では、ありがとうございましたっ」
ペコリと頭を下げてその子は店に戻って行った。
一「あ…」
あの子の背中がどんどん離れていく。
…自分が不甲斐ない…。
なんで、もっとフツーに話せないのだろう。
一(まぁ、話したところで嫌われるだけだし。でも…)
あの子が笑顔を向けてくれた。
それだけで、胸の奥があったかい…。
一(また…話したい…かも…)
ビニール袋をじっと見つめる。
一(今日は沢山手に入ったから、あいつのとこに寄って帰るか…)
おれは、路地裏にいる最近仲良くなった猫の元へそのまま向かうことにした。