第4章 ひとりぼっちヒーロー 一松
おれは一人で出かけていた。
今日は二十二日。にゃんにゃんデー。
近所のペットショップで、月に一度ある猫缶の特売日だ。
一(平日の昼間にパーカーにジャージでこんな所に来るとか、ニートなのが一目瞭然だよね。まぁ、別にいいけど…)
店に入ると、入り口目の前に台がある。
『特売品』と赤い大きな字が掛かっているが、台の上には何も置いていない。
主「いらっしゃいませー」
缶詰が溢れんばかりに入ったダンボールを抱えながら、店員が歩いてくる。
一(足がふらついてて…危ない…かも…)
助けたい気持ちはあったけど、気づかないふりを決め込むことにしたおれは、猫用のおもちゃを手に取ったりしてごまかしていた。
だけど…
子供「ママーッ!これ買ってーー!!」
小さなガキが店内を走り回っている。店員の横を通り過ぎる時、ガキの腕がぶつかった。
主「わっ!」
店員がよろけて転びそうになる。
一(危なっ!)
その光景が目に入ったおれは、反射的にダンボールを掴んでいた。
一(間一髪…缶だけに…)
店員はペタリと尻もちをついている。
一(っていうか…女子なのにこんな重いの持ってたのか…)
おれはダンボールを、そのまま特売品の台に置いた。
主「すみませんっ!ありがとうございました!」
店員が駆け寄ってくる。
主「助かりましたっ!あの、そちらはお怪我とかありませんでしたか!?」
一「……」
主「?」
一「……べつに…」
主「そ、そうですか…よかった…。では、私は仕事に戻るので、ごゆっくり店内を見て回ってくださいねっ」
そう言うと、店員はダンボールの缶詰を台に並べ出した。
一(は…初めて…この子と喋った…)
吐き気がするほど胸がドキドキしている。
…実を言うと、おれはこの店の常連で。
半年前に、この子を見かけるようになってから、ずっと片思いをしている。
どうせ、おれの存在なんて気づかないだろうし、見てるだけでいいや。
そう思っていたけど…。
一(…ついに、話せた…)
缶詰を並べ終わりあの子はレジへ戻って行った。