第11章 デート編 十四松の夏
胸を躍らせ駅へ向かうと、やはり彼はわたしの想像を軽々と超えていた。
準備して集合とは言ったけどさ…。
「あっははー!主ちゃーーんっ!」
嬉しそうに手を振り、こちらに向かってペタペタ歩いてくる十四松くん。
"ペタペタ"歩いてくる十四松くん。
「あのー、十四松くん」
「どーしたのー?」
「すごい準備万端だね。まだここ駅なのに」
わたしの彼氏はあろう事か、駅前で黄色いハイビスカス模様のアロハシャツ、海パン(というかいつも履いている紺の短パン)、浮き輪、シュノーケル、足ヒレ(フィン)を装備して待ち構えていた。
「海は楽しい分危険がいっぱいだからね。用意周到なくらいが丁度いいと思うんだ」
涼しげな声でそれっぽいことを言っている。
「うん…そうだね。わたしもそう思う。でも、とりあえず歩きづらいだろうかヒレは脱ごう?こんな事もあろうかと、ビーチサンダルを十四松くんの分も用意しておいてよかったよ」
「わかった!」
とりあえず浮き輪は空気を抜き、シュノーケルとヒレは没収してから二人でバスに乗り込んだ。
揺れる車内で肩を寄せ合い、移りゆく景色を眺める。
景色を見ながら口を三日月型に開いて微笑む彼の横顔。
それに釣られてわたしも笑顔になって。
他愛ない話をしながら目的地に向かう。
気づけば窓の向こう、海が見えてくる。
「次で降りるよ」
「わかっタイムリー!」
僅かな時間だったけれど、まるで子供のように海が見えるのを待ち焦がれ、ワクワクして…とても幸せなひとときだった。
・・・