第10章 デート編 一松くんのドキドキデート日和
一松くんは、いつも卑屈で自分に自信がない。
すぐにクズだゴミだ言い始めて、おれなんかって鬱ぎ込む。
一人が好きってそっぽを向く。
でもそれは、彼なりのコミュニケーションなのだろう。
発信してくるということは、裏を返せばかまってほしいというサイン。
本当に一人がいいのなら、今日みたいにこうして一緒に過ごさないはずだよね?
そんな一松くんをわたしはいつも待つ。
臆病な野良猫が怯えないよう、猫缶を置いてじっと待つ一松くんのように。
一松くんはケーキを食べ終わると、探るような目でこちらを見てきた。
「…飲めば」
クリームソーダをズズズとわたしの前に置く。
ソーダの中、絡まった二つのストローが踊っている。
わたしはストローを咥えて一松くんを見つめた。
テーブルの中央にグラスを置く。
一松くんが動揺し、目を泳がせる。
まるで、目の中にメダカでも飼っているみたいだ。
照れているけれど、こちらだって恥ずかしい。
(こんな、鉄板ネタのカップルストローをしようとしたのは一松くんでしょ!)
急かすようにジーーッと見つめる。
がんばれ一松くんっ!
二人で壁を乗り越えよう!!
・・・
五分経過。
アイスが溶けてソーダがモコモコしてきた。
さっきむせたのがトラウマになってるのだろうか。
「ねぇ、一緒に飲もう?」
「……」
相変わらず目が泳ぎまくっているけれど、目が合う回数が増えてきた。
・・・
十分経過。
未だ心の壁は崩れない。
もう、諦めよう。
氷が溶けて薄まっちゃったし。
ソーダを一口チュウっと飲んでから、一松くんの手元にグラスを置いた。
「ありがとう、美味しかったよ」
「……飲む…一緒に」
(い、今更っ!?)
「いいよっ」
こうして、ようやく時が動き出した。
炭酸が抜けたソーダを二人で向かい合いチューチューする。
こんな些細な事すら時間のかかるわたし達。
でも、だからこそ小さな出来事の積み重ねが嬉しい。
一つ一つが大切に思える。
「二人で飲むと、ドキドキするけど楽しいね?」
「う…うん」
一松くんとの距離が縮んだひとときだった。