第10章 デート編 一松くんのドキドキデート日和
中へ入ると参道の脇へ腕を引かれる。
ひっそりとあったのは手水舎(ちょうずや)。
手水舎とは、身体を水で清める場所のことだ。
なぜ名前を知ってるのかと言うと、主が教えてくれたから。
主は石で出来た水槽に立てかけられた柄杓を持ち、水を掬った。
その時、フワリと風が舞い、長い髪がなびく。
主は「あっ」と小さな声を漏らし、広がる髪を押さえながら、木の葉がざわざわと音を立てる枝葉を見つめていた。
「風、気持ちいいね」
「…うん」
風が静まると、主は白い手にサラサラと水をかけた。
濡れた手からぽとぽと落ちる水玉。
涼しげな口元。
艶やかに揺れるまつ毛。
…なんか、妙に幻想的で色っぽい。
(きれい…)
思わず見惚れ、ボーッとしていたら、主がくるりとこちらを向いた。
「ほら、一松くんも」
「っ!!」
笑顔の弾丸に心臓が撃ち抜かれる。
赤らむ顔を誤魔化すため、下を向き柄杓を手に持った。
(もうちょい見てたかったのに…)
なんて、本人にはこの命尽きようとも言えないので、平静を装い水を掬うと、主のマネをして左手、右手を清めて口をゆすいだ。
石畳の参道に戻り、グルリと一周見回すと、至る所に猫の置物が祀られている。
「ここは…猫の聖地なのか?」
「あながち間違っては無いと思うよ」
参拝客を見ると男が少ない。
学生からしわくちゃなババアまで、とにかく女女女。