第5章 裏切り者
楽しそうな声が聴こえなくなり、広津は太宰に尋ねる。
「あの子供はいいのかね?」
「ん?アリスの事かい?流石の私でも、あの子を始末するのは骨が折れるよ。広津さんがやってくれるかい?」
「否、助けられた身だ。出来れば遠慮したい。それに…。」
3日前もそう思ったが、今日もアリスの力を目の当たりにして確信した。
あの娘は子供の皮を被った悪魔だと。
本人の自覚が有るのか無いのか、時折表に出る、子供らしさとはかけ離れた仕草がより一層、対立相手に恐怖心を与える。
「勝てはしない。」
「私もそう思うよ。」
太宰が苦笑して続ける。
「アリスは裏社会で生きてはいるものの、決して裏組織の人間ではない。今は此のままで。」
「承知した。」
此処まで話終えると太宰は男達を一瞥した。
「私もティーパーティーに参加したいからね。早く終わらせよう。」
獰猛な笑みを浮かべて、男達に告げた。
全員、銃弾を受けた痛みを忘れ、小刻みに震えだす。
そうだった――……。
広津は太宰を見て、此の男も悪魔だったことを思い出した。
―――
太宰はボスである森鴎外の部屋に来ていた。
「裏切り者が13人ね。」
「はい。○○の差し金で、影を操る異能力者が1人、傘下組織に紛れ込んでまして其処から取り込みを開始していたそうです。」
「その男は?」
「処分しました。」
森に言われ、アッサリと答える太宰。
「そう。」
「○○も『パラサイト』によって内部から崩壊し、今までの連中とは違う奴等が仕切っていた。次はお前達、ポートマフィアの番だ、と。」
「『パラサイト』か。興味深いな。」
「調べますか?」
太宰は指示を仰ぐ。
「否、今はいい。今回、失敗した事は判っている筈だからね。暫くは向こうも様子見の筈だ。策を練り、次に仕掛けてきたところを一気に叩く。」
「判りました。」
そういうと一礼して太宰は去ろうとする。
「待ちたまえ、太宰君。」
其れを静止され、森の方を向く。
「何か?」
手に掲げられたモノを見て、太宰は驚く。
「此の少女は何者かね?」
「!」
森が手に持っていたのは防犯カメラの映像をプリントしたもの。
中也とアリスの姿だ。
出来れば会わせたくなかったのだけれど。
はぁ。と深く溜め息をついて太宰は話し始めた。