第5章 裏切り者
ガキィィン!
鉄格子をアッサリと変形させる中也の蹴り。
男を狙った心算だった為に中也は盛大に舌打ちする。
影を伝って交わされたのだ。
「!」
そして男は檻の中に現れる。
「あの帽子男は駄目だ。あいつを狙え。」
影から何かを取り出すと拘束している男達に其れを与える。
ポートマフィアから横取りした銃器。
狙いを広津に絞り、発砲の指示をする。
男達は皆、広津の部下だった。
にも拘わらず、だ。
ズガァン!
パンッ!パンッ!
「!」
「「広津さん!」」
何の躊躇いもなく男達は打った。
全ては自分達が生きるために――。
「糞ッ!間に合わねぇっ!」
広津も覚悟を決め、目を閉じる。
そして、聴いた。
「大人ってその玩具、大好きだよね。」
場にそぐわない可愛らしい声が奏でる、嫌味言。
「当たらないなら意味がないのに。」
銃弾が広津の目の前で停止した。
「「!?」」
クスクスと笑う声がした方をその場にいた者が一斉に振り向く。
「お前……。」
太宰の真後ろからヒョッコリ現れたのは、先程消えたアリス。
「流石に一寸、肝が冷えたよ。」
「あはは。影の中って予想より面白くって。そして、予想通り沢山のモノで溢れてたよ。」
「な……何故、其所に……。」
何事もなかった様に話すアリスと、少し心配そうな顔をしていた太宰。
その光景に驚愕する影男と視線がぶつかる。
「さあね?知りたきゃ自分で調べなよ。あ、此れ返すね。」
そういうと広津の前の銃弾が一斉に元の方向に帰る。
「がぁ!」
「ぎゃあ!」
弾丸が突き刺さったのか。
苦痛の混じった短い悲鳴を上げ、蹲る。
影男も例外ではない。
「殺さないでくれよ、アリス。未だ終わってはないのだから。」
「そんなことしないよ。私は幼気な女の子だもん。」
目の前の惨状をなんとも思っていない太宰と、
「幼気な少女」発言に『否!』とツッコミたいけど出来ない中也と広津。
「で?如何やって其所に?」
影男の代わりに答えを聞き出す中也。
「ん?普通にだよ?『影』は私の操作対象だもん。」
「お前は本当、何でもアリだな。」
「でしょー?」
クスクス笑って影男の方を見る。
「!?」
一瞬で無へと変わる表情―――。
「貴方が私を殺す?冗談でしょ?」