第5章 裏切り者
「「!」」
「お、黒幕が登場かな?」
全員が警戒する中、暖気な声でアリスが云う。
突如、影の中から現れた男がアリスを視界に捕らえる。
「漸くお出ましかい?」
太宰は事態を予測していた様子で男に話し掛ける。
「何れ殺そうと思っていた餓鬼まで此処に居るとは…運がいい。」
「およ?」
そういうとアリスに纏わり着いていた影は、アリス自身を飲み込み、
「「アリス!」」
綺麗サッパリ消えてしまった―――。
中也がアリスの居た場所を確認するも、何も残っていない。
「糞がっ!」
中也が男に向き合う。
「おっと。今、俺を殺したとしてあの餓鬼は元に戻れない。異能力を解除する者が居ないからな。」
チッ。
「太宰!」
目線だけ太宰に送る。
しかし
「否、私が触れたところでアリスは取り戻せない。」
太宰の表情は険しい。
「何でそんなこと言い切れるんだよ!」
中也が太宰に怒鳴り付ける。
「此の男と初めて対峙したとき、私は一度、異能力を解除した。」
「知ってる、そんなこと!」
「あの時だって横流しされた物資を全て発見できていなかった。つまり、物資を影の中に隠したままだった可能性が高い。」
「!何が言いたい…。」
太宰の発言に、信じたくない答が頭をよぎる。
其れを否定してもらいたいが為に、続きを促す。
「私が触れたところでアリスは戻ってこない。あの時、物資が戻ってこなかったようにね。」
その希望は叶わず、ハッキリと告げられる事実――。
「矢張り、頭が切れる男だな。その通りだ。俺が解除しなければ永遠に影の中で囚われたまま。誰にも知られずに死ぬ。助けることは不可能だ。」
「手前ぇ!」
嫌な笑みを浮かべながらそう云った影男に、中也が攻撃に入った。