第5章 裏切り者
しかし、広津は知っている。
此の少女も、隣に立つ少年と同じ悪魔の申し子であることを。
何をされるのか、と覚悟は出来ているものの不安は拭えない表情で少女の手を取る。
同時に、とても少女のものとは思えない強い力で引っ張られた。
「?」
「「!」」
起こったこと自体は一瞬だった。
広津が只、鉄格子をすり抜けただけ。
つまり、今居るのは太宰達側。
太宰と中也以外の者は全員、固まっている。
当人である広津すらも。
「本当はこんな檻、何時でも出られたんだよ。」
「……そのようだね。」
広津は声を絞り出して答える。
笑顔を崩さないアリスに少し恐怖心を抱きながら。
「今、何をしたんだい?」
「ん?檻の隙間の空間を1つだけ人が通れるくらいまで広げたんだよ。」
「ってか何だ?お前、捕まってたのか?」
「うん。巻き込み事故だよ。そしたら太宰お兄ちゃんに遭遇するし、もう本当にガッカリだよ。」
「そいつは、本当に災難だったな。」
太宰に遭遇したことを落ち込んで話すアリスと、同調する中也の間に少し不機嫌になりながら太宰が入ってくる。
「一寸待った。納得いかない。」
「「何が(だよ)?」」
息もピッタリな2人。
「何で中也がアリスとそんなに仲良しなの?抑も、何故私は『太宰』なのに中也は『中也』なんだい?」
質問され、アリスと中也は顔を見合わせる。嗚呼。と言ってアリスが答える。
「仲良いかな?確かにお話ししてて楽しいけど。名前は……。」
「名前は?」
太宰の顔は真剣そのもの。アリスは太宰と中也を交互に指差して言う。
「太宰兄ちゃんが中也って呼んでて、中也兄ちゃんが太宰って呼んでるから。」
子供らしい答えを返す。
「あ、そんな理由?」
「?うん。それだけだよ?」
深く考えて損をしたといわんばかりに溜め息をつく。
そしてアリスに向かって言う。
「私も名前で呼んでくれないかな?私達、恋人じゃないか。」
「は?恋人?」
「あ、未だその話は生きてたの?」
「私は嘘を付いた覚えはないよ、知ってると思うけれど。」
なんだ?この緊張感の全く無い、コントみたいな会話は―――。