第5章 裏切り者
「あ、私がするのは発見だけだからね?」
「構わないよ。後は我々の事だからね。」
太宰の言葉を聞き終わるとアリスは目を閉じた。
異能力―――『ワンダーランド』
突如、風が起きてアリスが周りに淡い光を纏う。
目を閉じたまま何かを探る様に集中している様だ。
「………。」
太宰はそんな様子を黙って観ている。
暫くして目を開けたアリスは笑顔で一言呟いた。
「見ーつけた。」
―――
「真逆、これ程とは。」
先日、少女達を入れた牢屋に広津も含め十数人の男が入っている。
「信じちゃ居るけど太宰の命令だ…悪いな、広津さん。」
「仕方がないさ。部下から裏切り者が出た。当然の結果だ。」
見張りの命を受けた中也が広津に話し掛ける。
広津以外の者は中也の言った「太宰」の言葉に顔がひきつっている。
願わくば、拷問は別の人間に。
そんな僅かな希望を、暖気な声が打ち砕く。
「やぁ、中也。此方は如何だい?」
「!特に何もねーよ。」
手をヒラヒラさせながら現れた太宰。
隣には少女を連れている。
「起きたのか、アリス。」
「うん。おはよー中也兄ちゃん。」
ニッコリ笑って中也と会話をし始めるアリス。
此の少女は先日、自分達が拉致した者ではなかったか。
訳が判らない様子で此方を観ている男達に気付き、アリスは笑顔を向け、質問する。
「裏切り者は貴方達だけ?」
はっとする男達。
太宰の連れてきた少女に取り入ることが出来れば或いは!
「違う!抑も、俺は裏切り者じゃないんだ!」
咄嗟に返事をする男が1人。
「俺もだ!」
「信じてくれ!」
それに吊られて次々に男達が否定的な内容を口にする。
其れを一応黙って聞いていたアリスは何も言わない広津に質問する。
「貴方は何も言わなくていいの?」
「ああ。裏切った覚えはないが、部下から裏切り者を 出した罪は重い。」
静かに笑って答えた広津に向かってアリスは手を差し伸べる。
「?」
「手、貸して?」
首を傾げていうその姿は、正にその辺の少女とは何ら違いのない無邪気な顔。