第5章 裏切り者
「お兄ちゃんだけ敵に回さなければ私は何時も通りに動ける。」
太宰に笑顔を向ける。その顔に吊られてか。
「!」
太宰がアリスの頭を撫でる。
ピクリと反応するアリスに手を戻す。
「嫌だったかい?」
「あ、ううん。違うよ……。」
「?」
アリス笑顔が一瞬で曇ったのだ。
理由を訊ねる気など太宰には全く無いが、何故だろうか。かなり気にはなる。
「ちょっぴり、懐かしいなって思っただけだから…。」
そんな太宰の気持ちを知ってか、知らずか。
「そう。それなら良かった。」
嫌がったわけでは無かったと知り、再び頭を撫でる。
嬉しそうに笑うアリス。
そうこうしていると目的の場所、駐車場に到着する。
こんな短期間で組織の物資が盗まれたり、情報が漏れたりしているのに現場を押さえることも犯人を捕獲することも、特定さえも不完全だ。
やっとの思いで捕獲した裏切り者も蜥蜴の尻尾切りの如く棄てられている始末。
こんなに此方の状況が読まれているということは――
「影使いは逃走げたんじゃない。未だ此処に潜んでる可能性が高いと思うの。」
駐車場に着くと、和やかな雰囲気から一転して仕事の話に戻る2人。
「成程。元より物資の横流しですら此方に全く気付かれずに遂行できていた人物だ。此処を拠点にすれば、状況把握も出来る上に、混乱を起こして内部から崩すことも出来る。」
「そう。しかも影の中を覗くことなんか出来ないから普通の人には見付けられないし、怪しまれたら影の中を移動すれば自分は絶対に安全だしね。」
此処まで言い終わって、太宰を見上げるアリス。
「其処までは太宰のお兄ちゃんも推測の範疇でしょ?」
「まあ、ね。只、それを確認する術を私は持ち合わせていない。故に、怪しい者に吐かせようとしたが…」
「既に手が回っていて殺されてしまった。」
アリスが正面を向き直す。
「中り。その者も捕らえてはあるが同様の事態が推測される。だから未だ何も動いてないのだよ。」
太宰は溜め息を溢して歩みを止めると「この辺が中心だよ」とアリスに告げる。