第5章 裏切り者
「じゃあ早速、行動を開始しましょ♪」
ピョンと立ち上がるアリス。
「何処から捜すんだい?」
それに太宰も続く。
「取り敢えず、この建物の中心かな。」
「?」
「影を操れるのはなにも、あの男だけじゃないんだよ?」
太宰に案内を促すと、笑いながら言った。
「広範囲見渡せる建物の中心と云えば地下駐車場しかないのだが…構わないかい?」
「うん。」
「でも何故だい?私の部屋だと不都合でも?」
「出来ないことは無いんだけど、面倒なんだよ。」
「何が?」
「『ワンダーランド』は私を中心に、視界が及ぶ距離までを半径として出来る円の内部が発動範囲内なんだよ。」
「…成程。広範囲を見渡すことが出来れば一回で済むわけか。」
「そういうこと。」
「それならば外に出た方が早いのでは?」
「そこまで万能じゃないから内部のことを知りたければ建物の中に侵入してないと駄目なんだ。」
「へえ。じゃあ以前の情報も侵入してきたのかい?」
「そうだよ。だから、この間みたいな闇取引の情報が必要な時に一番始めにするのは、広範囲見渡せる場所で、建物の特定に繋がる情報を探すこと」
「どうやって?」
「取引するなら『直接会う』か『通信機器による伝達』かのどちらかでしょ?」
「まあ、そうなるね。」
「前者は大抵、範囲内の防犯カメラをハッキングする。」
「…カメラに映るようなヘマをするような連中ばかりだったのかい?」
「はは。真逆。お兄ちゃん達みたいな裏組織の人達は大抵、証拠を残さないように下調べしてるからカメラに直接は映ってないよ。」
そうだろう。
「でも、私は『映像』を…『映っている部分』を視界に置き換えて、防犯カメラを中心に映って無い部分を見る事とかも出来るから。写真じゃ無理だけど。」
「…今後は一般の郵便局員でも使おうかな。」
「それは確かに捜すのに骨が折れそうだ。」
本気か判らない太宰の言葉に苦笑しながら律儀に反応するアリス。
にしてもだ。
「あれだけ異能力のことを頑なに話さなかったのに良かったのかい?」
対策を考える機会を与えるようなものだ。
少しのミスが命取りになる世界なのに――。
「今更だよ。」
「そう?」
「そうだよ。まあ、口外しても無駄だってことだけは言っておくね。」
「成程。そういうことか。」