第5章 裏切り者
「物騒な能力だね。」
「うん。私自身、制御できてないんだと思ってる。」
「そう。それで、無いのに在るもの、在るのに無いもの具体的な例は?」
太宰は続きを促す。
「………。」
アリスはじーっと太宰を見た後、
「?」
プイッと外方向いて言う。
「朝ごはんとミルクティー。あ、お風呂も入りたい。」
「!」
情報提供の取引条件をアリスが提示する。
少し驚いた後に笑い出した太宰。
一頻り笑い終わるとアリスに告げた。
「随分、安上がりな取引条件だね。直ぐに用意させよう。何がご所望だい?」
「何でもいいの?!じゃあパンケーキがいい!」
2日も食べてないのだ。
食べられれば何でも良かったアリスだったが、好きなものを提示してよいと分かると満面な笑みで好物を答えた。
―――
「お腹いっぱいー。」
「それは良かった。」
幸せそうにミルクティーを飲むアリス。
そして、質問の答えの続きを話す気になったのか、何だっけ?と太宰に首を傾げてみせる。
「具体的に何が出来る異能力なのか。」
「嗚呼、そうだった。」
カップをカチャリと元の位置に置いてアリスは語り出した。
「無いのに在るもの、在るのに無いもの。その言葉通りだよ。例えば、空気だったり、音だったり。存在するけど認識出来ないもの。或いはその逆。記憶とかね。」
「………。」
本当にそんなことが出来るのか?
若し、アリスの云う通りに『存在するも認識でき無いものと、その逆』全てを操ることが出来るならば。
『便利な異能力』どころの話ではない―――。
「記憶とか、存在が曖昧なのに頭の何処かにきちんと何らかの形であるでしょ?そういうものを操れるの。」
「………今までの取引相手やあの少女達がアリスの事を忘れてしまっていたのは、記憶を消していたからなのか。」