第1章 情報屋
笑ってはいるけどーーー
太宰の目までは笑っていないことに気付いたアリスは首から下げている懐中時計の針が指す時刻を確認する。
「一寸話過ぎちゃったね。」
ごめんねーと言いながら兎型のリュックを開け、ゴソゴソと何かを探す。
「在った。」と言いながら取り出したのは、写真程の大きさの封筒とICレコーダー。
「件の組織と、ポートマフィアと敵対している○○との取引内容を録音したものと、其の証拠写真だよ。」
「!」
その内容は間違いなく2人が――ポートマフィアが血眼で探していた情報そのもの。
「俺達と敵対している組織の名まで調べたのか。」
「いや?全く以て興味は無かったんだけど…調べて欲しいって言われた組織の取引相手が○○で、ずっとお互い『後少しでポートマフィアを潰せる』って言い合ってたから。」
数分前まで口喧嘩をしていたとは思えない程、2人とも落ち着いて会話している。
「私達の与えていない情報迄識っているのだから此の情報らは信用出来そうだね。」
「当然だよ。報酬分はきっちり働くよ。此の世の中、私みたいに未だ子供だとしてもお金が無いと生きてはいけないからね。」
先程までの少女とは別人のように大人びた笑みを浮かべ、淡々と話す。
矢張り彼女は裏社会の住人なのだと確信した。
そして恐らく―――。
其の黒い世界で幼いながらに生き残っているのであれば自分達と同様に特殊であることも。
「じゃあ報酬と交換しましょ。」
アリスはニコッと笑いながら、アタッシュケースを指差す。其の指先を見て自分の手に在る筈の物が無いことに気付き、回想する。
「あ、アタッシュケース投げ捨てたままだった。」
と、慌ててアタッシュケースを拾いに行く中也の腕を太宰が掴む。
「うおっ。何しやがる、太ざ「君さ。」また此のパターンかよ!」
「?」
突然、太宰に向けられた怒気に首を傾げるアリス。
まあ、元々、眼が笑っていなかったためか、それほど動揺はしていない。
「言ったよね?報酬分はきっちり働くと。」
太宰が自分達の周囲を一瞥する。
「?うん。云ったよ?」
「首領が君に用意した報酬額は弐千萬円。」
「!」
中也も漸く異常に気付き、身構える。
3人以外に誰もいなかった筈の此の場所に人が集まってきている。
それも10や20ではない―――。