第3章 人攫い
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「月が綺麗―……!」
噴水に腰掛け、空をボーッと眺めながら呟く。
それと同時に人の気配を感じ、思わず立ち上がる。
「そろそろ来ると思ったよ、治兄。」
「アリス?如何して此処に…」
向こうも警戒していたのか。
慎重に進んできた太宰と、その連れがゆっくりと姿を現す。
「何だ太宰、知り合いか?」
太宰の知り合い、しかも少女と分かり、警戒を解く連れ。
「初めまして、アリスです。」
「国木田だ。」
アリスは笑顔で国木田と握手をかわす。
が。
太宰の顔はそれとは正反対の、不機嫌なものへと変化する。
「先刻は逃げたのにどういう心境の変化だい?」
「先刻?」
「状況が変わったんだよ。」
「真逆とは思うが、昼間、お前が紹介しようとした『彼女』とやらが…」
「そ。この子。」
しれっ、と云う太宰の其れを聞いて、ギギギッと音でも立てている様に首をアリスの方に向ける国木田。
そしてガシッと肩に手を置く。
「此の自殺マニアの何処がいいんだ?!騙されてるぞ!悪いことは言わん!やめた方がいい!こいつは何時も突然、川に飛び込んだりして予定を狂わせたりだな!」
真顔で説得を始めた国木田の言葉を、クスクス笑いながら聞いているアリス。
「で?如何してアリスが此処に?」
それを見て、一寸面白くなさそうな太宰が話題を変えた。
その一言にハッと我に返る国木田。
「そうだ。小娘。何故此処に居る?悪いことは言わん、早く立ち去れ。」
「そうしたいのは山々なんだけどね。」
そう言いながら目線を後方に送る。
「国木田君!」
「!」
それに気づいた太宰がアリスの立っていた噴水の反対側を見て、国木田を呼ぶ。
「貴方達が遅かったから、そうも出来なくてね。」
二人の目の前に広がるのは自分達が探していた子供達。
その全員が、俯せで倒れていた。