第3章 人攫い
「此れ!」
アリスが嬉しそうに中也を見る。
確かにこいつが好きそうな成りをしているが其れだけじゃなさそうだ。
黒い考えが浮かぶ。
「随分、嬉しそうじゃないか。贈り物か?」
「そうなのー!私、今日誕生日だから治兄がくれたんだ♪」
「!」
太宰の名前が出てきたせいで一気に気分悪くなる。否、大事な箇所は其所ではない。
「お前、誕生日…」
そう続けようとしたが先刻まで死にかけていた部下達がススス…と、中也に近寄り、耳打ちする。
「思い人の誕生日知らないのは絶対駄目ですよ。」
「だから太宰さんに先越されるんですよ。」
「だー!煩せぇ!」
アリスに聞きたいことがあったのに。
茶々を入れてきた部下達を殴り飛ばす。
「中也兄、有難う!」
「タダで返すなんて言ってねーだろ?」
ニヤッと笑ってネックレスを上に持ち上げる。
「駄目ですよ!中也さん!折角のフラグが折れてしまいます!」
「ライバルのプレゼントを返すくらい寛大でないと!」
「そうですよ!敵に塩を送るですよ!」
懲りずに近寄っては耳打ちしてくる部下の言葉に
ピシッと、米神に青筋が走る。
「話が進まねーから黙ってろ!」
連れてくる部下を間違えたと後悔しながら殴り飛ばす。
「何すればいいの?大抵の事は手伝ってあげるよ?」
そんな部下達とは打って変わってアリスは物分かりがいい返事をしながら笑顔で中也を見る。
大抵の事は。
アリスは普段、内容を確認した上で仕事をするか否か判断する。
それなのに――。
俺の負けか、と小声で呟きながら本日何度目になるか分からない溜め息を付く。
「中也兄?」
キョトンとしたアリスの掌にネックレスを乗せ、頭を撫でる。
其れから仕事内容を話した。
「頼みたいのは人探しだ。」
「人探し?」
ネックレスを着けながら聞き返す。
「最近、子供の誘拐事件が話題になってんだろ?」
「あー。成程。」
「何だよ、その返事。」
詳しく説明などしてないのに中也の話に納得するアリスに疑問を抱く。
真逆、誘拐事件の方に肩入れしてるのでは――。
一瞬、脳裏に浮かんだ推測。
然し、アリスに限ってその様な事に手を貸す筈がないと思い直す。