第3章 人攫い
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「糞っ!何処行きやがった!」
人影が入っていった部屋に、中也も続くようにして入室する。
が、人影どころか生き物の気配すらしない。
間違いなく此の眼で捉えたと云うのに――!
イライラを目の前にある机にぶつける様に蹴り飛ばすと、バキッと嫌な音をたてて砕けた。
それと同時に何人かの足音が近づいてくる。
此れは知っている足音だ、と警戒せずに其方を向く。
「中也さん!此方には居ません!」
「此方にも居ません!」
中也は盛大に舌打ちする。
被っていた帽子を直し、報告してきた部下たちに命令する。
「何が何でも探し出せ!絶対に殺すな!」
「「はい!」」
そう言って、部下たちは勢いよく部屋を出ていった。
間違い無く、此の部屋に入るのは見た。
なのに誰も居ない。
そういえば、以前にもこんな事なかっだろうか?
もう一度、部屋全体を見渡すも人の気配は矢張り、無い。
緊張を解き、中也は屈んで手を動かし始めた。
「序でだ。此の部屋から探すか。せめてUSBだけでも見付けられれば…」
中也の蹴りで砕かれてしまった机の破片を退けながら目的のモノがないかを探す。
「あ、USBって此れの事?」
暖気な声と共に背後から目の前に付き出される掌。
其の上に在るものは紛れもなく中也が探していたもの。
「嗚呼、そうだ!お手柄じゃねーか…っ!」
素早く懐から銃を出し、振り向き様に銃口を当てる。
「!」
銃口を向けた方が、相手を認識すると盛大に驚く。
が、当てられた本人は特に動揺した様子はない。
「折角、見付けてあげたのに酷いなぁー。まぁ、撃ってもいいよ?当たらないけど。」
矢張り暖気な口調で話す。
中也は突き付けていた銃を直ぐに離した。
「アリス?!手前、何で此処に!」
真後ろに立っていたのはこいつだったのか。
ーーー道理で気配が無い筈だ。
相手を見て納得する。
「久しぶりー中也兄!」
「うぉ!急に抱きつくな!」
アリスは質問には答えず、ピョンと中也に抱き付く。
難なく受け止める心算だったが元々の体勢が悪かった。
バターンッと倒れ、アリスの下敷きになる。