第16章 休息
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「って云う夢を見てね?」
「………。」
ポートマフィアへ向かう車の中。
運転席に座っている中也に、隣に座っていたアリスが話している。
「若し、ポートマフィアの人間だったら治兄と決別していたのかー。」
「お前、その夢の噺、太宰には云ったのかよ。」
「あははー真逆。言ってたら今日のお茶会とか参加させてもらえるわけ無い上に、首輪つけられて治兄の傍から離れられないよ。」
「………だろうな。」
探偵社の社員の筈のアリスが敵であるポートマフィアの幹部の車に乗っている理由。
それは、何時ぞやかにポートマフィアの首領である森鴎外と交わした取引――「お茶会」に参加するためだった。
勿論、太宰以外の探偵社の者は誰も知らない。
マフィマ・組合・探偵社の争いが漸く収まった為、森が『そろそろ約束を』と云ってきたのだ。
太宰は渋ったが、アリスが森と取引をしてきた時点で『お仕置き』を済ませていた為、これ以上何も言えずに送り出した。
当の本人は美味しいケーキや紅茶、森の傍にいるエリスに会えるのがたのしみだった。
その上、迎えに来たのは幹部の一人である中也だ。待遇は抜群に良い。
「今頃、太宰の野郎は不機嫌に街を彷徨いてるんだろうな。」
「仕事の筈なんだけどね。盗聴してるからどうせ集中出来ないだろうし、その方がマシかなあ?」
「……。お前、帰ったらマジで首輪付けられて監禁されるかもな。」
前を向いたまま、物騒なことを云う中也に大声で反論する。
「えぇ!?未だなんにもしてないのに!?」
「盗聴されてんだろ?」
「うん。何処に仕込まれてるか判んないし探す気もないけど間違いなく。」
「今話した夢の噺も聴かれてるってことだろ?」
「あ……。」
完全に忘れてた。
「お前がポートマフィア側の人間になる可能性なんて彼奴が許すわけねーもんな。」
「でも夢だから…。」
「『夢は願望の表れ』だとか『予知夢かもしれなかった』だとか云われて、話していかなかった罰として監禁されるな、こりゃ。」
「………。」
そんな真逆!
否定したいのに、全く否定できないアリス。
寧ろ、その光景しか浮かばなかった。
中也は知っているのだ。
太宰のアリスに対する執着は異常だと云うことを。