第16章 休息
パタンッ
自分達以外の気配が無い階段に響き渡った扉を閉める音。
太宰は探偵社がある1つ下の階で歩みを止めていた。
そして、扉の閉まる音を聞き終わると後ろにある気配に話し掛けるべく振り返る。
「帰らなくて良かったの?『太宰さん』のこと、捜してるみたいだけど。」
「………構わないよ。それよりも探偵社に用事かい?アリス。」
帰り際、ずっと跡をつけていた人物に先に話しかけられた上、ハッキリと『太宰さん』と呼ばれた事に少し眉を寄せる。
「特には。只、どんな人達がいるのか気になっただけ。」
「へえ。」
「虎のお兄ちゃんも優しそうだし、その人と話してる人も良い人そうだね。」
見てもいない筈なのに、敦に話し掛けた人物の事まで話すアリス。
アリスの異能力を以てすれば大したことではないか―――。
「そうだね。それで用事はなんだい?」
それよりも尾行していた理由だ。
先程と同じ質問をする太宰。
その言葉にアリスはあからさまにムッとする。
「特に無いってば。」
「アリスが理由もなく動くわけ無いだろう?」
「………。」
太宰の言葉に不機嫌のまま黙り込む。その眼は太宰を睨むように鋭い。
然し、アリスの事を知らない太宰ではない。
アリスが面倒事を理由なく引き受けるワケがないのだ。
この尾行も目的があってのものだと太宰は確信していた。
アリスの方も太宰を見る眼は変わらないものの、相手が悪いと思ったのか。
「目的は3つ。」
「……。」
話す気になったことに少し驚き、アリスの方を黙ってみている太宰。
「敵情視察にきたんだよ。そろそろ大規模な戦争が始まるからね。」
「アリスも動くのかい?」
「さあ?疲れそうだしお断りしたいけど未だ判んないよ。動けって言われたら中也兄と行動しようかなーって思ってる程度。」
「………。」
アリスは太宰から探偵社の扉へと移す。
「もう1つは虎のお兄ちゃんを連れて帰ろうと思ったんだよ。あっくんも派手にやられちゃったみたいだしね。」
「……随分、芥川君に優しいじゃあないか。」
太宰の声が低くなる。
「『太宰さん』がそれを云うの?虎のお兄ちゃんは貴方にこうも守られてるのに。」
鼻で笑って太宰に言い放つ。反論できない。