第16章 休息
「アリスの異能力はチートに近い。その気になれば抵抗する間も与えずに殺せる。」
「チート…」
大量の弾丸が止まっていた光景を思い出す。
「そのアリスが動いたってことはあの組織に属していた人間はもう誰も生きてはいないよ。」
「そんなっ!あんな小さな女の子が人殺しなんて!」
「あんな見た目をしているけれど、アリスは敦君の1つ下だよ。」
「え゛…17歳!?」
「否、まだ誕生日がきてないから16歳かな。」
「み……見えませんね。」
「だろうね。だから敵は油断する。」
「!」
「そして、恐らくあの世で後悔するだろう。『相手が悪かった』ってね。」
「……そんなに強いんですか?」
「そりゃーもう。芥川君なんて比じゃないよ。」
「!?」
あれだけ苦戦した芥川の比でないだって!?
敦の表情が険しくなる。
「ただ、好戦的では無いからね。敵意さえ見せなければ相手が敵であろうと誰にでもあんな感じなのだよ。」
「それで……。」
先程の忠告の意味を漸く理解した敦。
「まあ、あの感じだと敦君は今後も敵意さえ見せなければ殺されたりはしないだろう。何処かで鉢合わせても戦ってはいけないよ。」
「判りました。でもあの子、太宰さんの事、『治兄』って呼んでたのに最後だけ『太宰さん』って言ってましたね。」
「………そうだね。」
ふぅ、と小さく息を吐いて小さい声で返事する太宰。様子が急変したため心配になる敦。
「私は『敵』になったのだろうね…。」
ポツリと太宰が言った言葉を上手く聞き取れなかった敦。
「え?」
「なんでもないよ。」
「?」
ニッコリ笑って敦に告げる。
そうこうしている間に探偵社のあるビルに着いた。
「戻りましたー。」
事務所の扉を開け、帰宅を告げる敦。
「遅かったな。」
「一寸、色々有りまして。」
遅い時間だが、残業で残っていた国木田に声をかけられる。
「おい敦。太宰は如何した?」
「え?一緒に帰って――……あれ?」
振り返ってみるも、其処に今の今まで一緒にいた太宰の姿は無かった――。
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