第16章 休息
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「あの消えたビルに『ポートマフィアのフロント企業が入っている』って云う情報を組合に流した組織が判ったんですか!?」
「正確に言えば自ら探偵社に名乗り出たのだよ。敦君達が出掛けた直後に。」
「何でまた…。」
太宰と敦は太陽が沈みきったばかりの夜道を、目的地について話ながら歩いていた。
「そのマフィアは『接触した組合の情報を提供する』と申し出た。」
「成程…。その情報を我々、探偵社に売りたいって事ですね。」
「否、違うよ。恐らく、我々と関わることで避けたいのさ。」
「?何をですか?」
敦の疑問にふぅ、と短く息を吐きながら答えた。
「ポートマフィアマフィアからの報復さ。」
目的地に着いたのか。太宰が歩みを止めため敦もそれに倣う。
「知らせてきた住所では此の辺りの筈なんだけど。」
「人気の無い倉庫街ですね……。」
目的の人物が居ないかを探すため、辺りを窺う二人。
「でも僕達と接触した位で報復を避ける事なんて出来るんでしょうか?」
「否、まず無理だろうね。他の組織なら兎も角、相手はポートマフィアだ。」
首を横に振りながら答える太宰。
ですよね…と敦が小声で呟いた瞬間、視界に此方に向かってくる人影を捉える。
「太宰さん!」
「ん?」
敦が呼び掛け、指を指す。
が、敦の視野と太宰のとでは見える範囲が違いすぎるため太宰は首を傾げる。
「誰か居たかい?」
「はい。でも………。」
向こうの人影も敦と同様に此方に気付いた様子だが、此方に向かってくる歩みは止まらない。
徐々にその姿が認識出来ると敦は驚いた顔で声を発した。
「……女の子……?」
「え?」
少女の様なシルエットを持った人影は更に二人との距離を縮める。
その姿がハッキリと見えた瞬間、隣にいた太宰と少女とが同時に口を開く。
「アリス……。」
「治兄?」
現れた少女のモノと思われる名を呼んだ太宰の顔は驚きを表していた。
対して少女の方は偶然の再会に驚いた様子であったが直ぐにニコニコと笑顔を作る。
「太宰さんの知り合いですか?」
その二人の顔を交互にみてから質問する敦。
「……。」
「太宰さん?」
しかし、質問の返事は無い上に徐々に険しい顔になる太宰に敦が不安を抱く。
「お兄ちゃん今晩は。」
アリスと呼ばれた少女は敦に話し掛けた。