第16章 休息
無事に会議は終了し、各々、部屋をあとにする。
「アリス。」
廊下に出て直ぐに呼び止められ、歩みを止めるアリス。
「なぁに?中也兄。」
「手伝うか?」
「いいよ。中也兄は西方の小競合いの片付け後で疲れてるでしょ?」
「まあ…。少しはな。」
こんな小さい子どもに気を遣わせて居るのかと苦笑し、アリスの頭を撫でる。
「治兄にもこっぴどく負けちゃった位だしね?」
「負けてねーよ!」
アリスの言葉に間髪入れずに返答し、頭を撫でていた手を止める中也。
コイツは小競合いのことよりも此方の事を言いたかったのか!
「つーか!何でその事知ってんだぁ!?」
「何でって……一部始終を観てたからに決まってるでしょ?」
「…………。」
クスクス笑いながら然も当然の様に語るアリスに肩を落とす中也。
観られていたのに気付かなかったとは――。
然し、太宰の注意が自分から一回も逸れなかった事を考えれば…恐らく太宰の方もアリスに気付いてはいなかった筈だ。そうに違いねぇ。
それで良しとする中也。
「治兄、元気そうだったなあ。」
ポツリと呟いたアリスの言葉に思わず眉を寄せる。
「………彼奴の所に行かなくていいのかよ。」
「んー?今のところはそんな予定無いよ。でもどうだろう。誘われたらアッサリ出ていくかも?」
「お前の意志が全く無ぇな。」
「あるでしょ?ちゃんと。『治兄に従う』っていう意志が。」
ふぅ、と息を付き中也を仰ぎ見る。
「元より私が此処に居るのだって治兄に云われたからだし。そう言われたら此処に留まる理由も無くなってしまう。あ、それとも今すぐ出ていけってこと?」
「そんなこと一言も云ってねーだろうが。」
アリスの頭をワシャワシャと乱暴に撫でる。
「もうっ!髪が乱れちゃう!」
手を振り回しながら反抗するアリスに苦笑する中也。
「……心配しなくても『私は』黙って出てったりしないよ。約束する。」
「そうしてくれ。」
ニッコリ笑って指切りをするため小指だけを立て、中也もそれに応じる。
その指を離すとアリスは小声で何かを呟き、そのまま去っていった。
「居場所、か。」