第16章 休息
「……と云うわけで、この組織を迅速に片付ける必要がある。」
珍しく真剣な面持ちで首領…こと、森鴎外が目の前に座る部下達に告げる。
普段と違って今回は珍しく真剣な会議なのだが、殆どの部下は真剣に話を聞いていた。
『殆ど』と言わざるを得ない原因は、ニコニコしながら紅茶をカップに注ぎ、それをケーキの乗った皿の隣に並べると満足そうに頷き、手を合わせる。
「いただきまーす。」
「オイッ!」
それに気付いた隣の席の中也がその人物の横腹を小突いて話し掛ける。
「んー?中也兄でも此れはあげないよ?」
「要らねーよ!ってそうじゃねぇ!真面目な話なんだからちゃんと聞け!」
話を其方退けで真剣にケーキを頬張り始めた少女に怒鳴る中也。
「……アリスちゃん。」
「!」
森がその少女の名を呼ぶ。
ビクッと肩を少し上げ、冷や汗をかいているのは呼ばれた本人ではなく周りの人間。
「何ー?」
重大なことを仕出かしてる気など全くないアリスは手を止めることなく森の方を向く。
「………。」
「「「………。」」」
「?」
森がアリスの顔をじっとみる。
中也含め、周りにいた人間にも緊張が走る。
「そのケーキ、美味しい?」
ガタッ
極度の緊張が一気に解け、ズルッと力が抜ける周囲。
「うん!流石ボス!センスあるねぇー」
ニッコリ笑いながら答えると森も、ぱあっと華やいだ笑顔になる。
「それは良かった!他の種類も用意してあるから後でエリスちゃんも一緒にティータイムにしよう!」
「賛成ー!楽しみに♪」
モグモグと口を動かしながら答えるアリス。
このやり取りを溜め息つきながら見るその他の幹部組。
よく考えれば判ることだったのだ。
アリスの席だけにティーセットを用意していたのは他でもない、森なのだから。
「ゴホン。首領。それで、誰を向かわせましょう?」
中也が仕切り直し、指示を仰ぐ。
漸く本題に戻したのだが、森の視線はアリスに向いたままだ。
「「首領?」」
「ああ、成程。私だね。」
その意図を一人だけ正確に汲み取ったアリスは、最後の一口だったケーキの欠片を飲み込み、紅茶に手を伸ばしながら答える。
「理解が早くて助かるよ。行ってくれるかい?」