第2章 夢主
今、絶対酷い顔をしてる!
顔を洗って、目の前の鏡に映る自分を見る。
「矢っ張り酷い顔!!」
「そう?何時もと変わらないけど。」
頭を擦りながら何時の間にか真後ろに立っている治兄。
「何時も酷い顔ってこと?!」
勢いよく振り返ると、腕を引かれまた抱き締められる。
「そんなこと言ってないでしょ。」
うー。こうやって数多の女達をたぶらかしてきたのか。
私も抵抗はしない。
しないけども…
「何で直ぐに抱き締めるの?」
「先刻も言ったけど。恋人だから此れくらいは普通で「イヤイヤイヤ。」」
矢っ張り!
先刻はスルーしたけど恋人って言いました?!
「恋人違うから!何故?!何時から?!何時の間に?!」
「え?あの時の取引条件をアリスが了承したときからだけど。」
「取引?!……はっ!真逆、2年前のあれ、本気だったの?!」
「勿論。」
満面な笑みで答える治兄。
ってことは私は2年前から治兄の恋人だったのか。
なんて考えてたら、抱き締めていた手を解き、ぽんぽんっと頭を撫でられてる。
「もう大丈夫だね。」
「!」
元気付けるための嘘だったのかな?
『猫』は反応してないけど。
残念…じゃなかった。安心した。
「…うん。有難う。」
「却説、そろそろ行くよ。」
そう言うと、治兄は回れ右をして歩き始める。
慌てて治兄の外套を掴み「治兄」って声を掛ける。
歩みを止めて此方を向いてくれた。
「私は未だ、大人を信じることは出来ないから。武装探偵社も。……だから」
これでお別れって言おうとした。
でもその言葉を紡ぐことは出来なかった。
「っ!」
間合いをあっさり詰められる…られた。
治兄の顔が目の前にある。
そして私の耳に口許を寄せ、囁く。
「別れの言葉なんて言わせないよ?」
「!!!」
全身の毛が逆立つ。
今、何が起こった?!
治兄が目の前に?!
耳元で話さないで?!
慌てふためく私を見て満足そうに笑いながら
「またね。私の可愛い恋人さん。」
そう言い残して去っていった。
私は真っ赤な顔してその場に座り込んだ―――。