第15章 自覚
「これと違うのかよ。」
「此方は契約を更新している馴れた人達用なんだ。パターンが10種類ある上、少し部品の数が増えるんだ。」
「うげぇ。6種類でも面倒くせぇってのに。」
中也がアリスの代わりに男と会話する。
その間、アリスは見本を見ており、一言も話さない。
「……出来そうか?」
アリスが黙ったことを心配に思い、問いかけるも直ぐに反応はない。
そして約1分後、見本を閉じる。
「コレ、さっきの6種類も分けながらするの?それとも10種類だけで分けるの?」
「なるべく今の10パターンだけで分けて、余ったら6パターンの方で組める分を組んでくれ。」
「はーい。」
質問の回答を得ると、又もや何も見らずに部品分けを始めた。
その光景を驚いた顔で見ている監視役の男。
「……何で見本も見らずに、チェックシートも使わずに、数パターン同時に振り分ける事が出来る?」
「全部記憶してるからだよ?」
「そんなこと出来る筈が!」
「出来るよ。日頃から細かいことでも記憶する訓練をしておけば誰でもね。」
「じゃあ何故昨日はしなかった?」
「昨日は部品の形を全て覚えるのに費やしちゃったんだよ。だから今日はスムーズに作業が出来てるの。」
男と話している間も手は止まらない。ところが、あることに気付いて、ハタと手を止めてしまうアリス。
「あ、でも一寸待って。こんなに頑張ってもナカヤお兄ちゃん…は良いとして他の人達と同じ給料なら頑張る必要無いよね?矢っ張りボチボチしようかなー」
ため息をついて、あからさまにペースを落とす。
「!?確かに…アリス君の事は上司に報告しておこう。」
「ホントー?特別ボーナスとか貰えちゃうかな?」
「ああ。掛け合うよ。」
「わぁい!頑張るね!」
ニッコリ笑って、ペースを戻すアリス。
こんなところでも交渉上手だな、おい。
そのやり取りを横目で見ながら呆れている中也。
男が漸く去ると、アリスに小声で話し掛ける。
「そんなに目立ってどうすんだよ。」
「恐らく、私が何かを目的として侵入してきている事は既にバレてると思うんだ。」
「はあ?」
クスクス笑って中也の質問に答える。
予想外の言葉に呆れる他、出来ない中也。
「だから向こうからの接触待ち。」