第15章 自覚
『アリス。中也に代わってくれ給え。』
「え…あ…うん。」
矢っ張り、度々、何か怒らせることを言っているみたい。
でも―――判んない。
何れが話したくなくなる程に治兄を怒らせちゃったのか。
「中也兄ー……」
丁度、洗面所で顔を洗って戻ってきた中也にしょんぼりしながら近付いていく。
「あ?また喧嘩したのか?」
「うぅ…。」
差し出された電話なんか受け取りたくなどなかったが、アリスのあまりの落ち込みように溜め息だけ付いて、受け取る。
「今度は何なんだ。」
心配そうに見ているアリスの頭を撫でてやりながら、呆れ声で電話の相手に言う。
『アリスが寝込みを襲われたって言っているけれど』
「ああ。此処の社員が昨日な。」
『社員?』
「昨日働いている間中、ずっと見張っていた男だ。」
『なんでそんな男がアリスを?』
「同じ部屋が良いって云う我が儘を聞いてくれたお礼に笑顔振り撒いてたからなあ。」
『……そういうこと。で?中也は一体何をしていたんだい?』
「ああ?何時の話だよ。夜這いの話なら部屋に入ってきた時点で追い返してるっつーの。」
『あ、そう?』
「俺が追い返さずともアリスも起きてたけどな。」
太宰に見えるわけもないのにコクコクと頷いているアリス。
『ならいいや。アリスに代わってくれ給え。』
「最後まで話聞いてから止めてやれや。いいか?二度と代わるなよ。何が悲しくて朝も早くから手前ェと電話なんざしなきゃならねーんだよ。」
『それは此方の台詞だよ。抑も、中也が向いてない仕事を振られた時点で連絡してこなかったせいじゃあないか。』
「はあ?手前ェが『只の雑用』って書かれた指図書を寄越したせいだろうが!」
『まあ雑用位が丁度いいもんね、中也は。』
「んだとコラ。手前ェ……帰ってきたら覚えてやがれ!」
そういうと電話をアリスに押し付けて、部屋から出ていってしまった。
それを見送ってから電話を耳に当てるアリス。