第15章 自覚
良かった……何時もの治兄だ……。
何時も通りの声に安心するアリス。
現在、とある組織に潜入調査中であるアリスは、全く別行動をしている太宰と電話していた。しかし、その事について話している途中で太宰が急に黙り込んでしまったのだ。
困ったアリスは一緒に居る中也に助けを求めて電話を押し付ける。それがアリスの元に戻ってきた時には、いつも通りの太宰の声が返ってきた。
如何やらアリスが太宰を怒らせてしまう様なことを云ってしまったらしい。
アリスは少し考えてみるも、思い当たる節は無かった。
何で治兄は怒ったのだろう――。
思いこそすれど、今すぐ訊ねることはしなかった。
今は、太宰と話せるのだから善しとしよう。
その内、理由を教えると云っていたことだし。
そう思いながら電話の声に耳を傾ける。
内容はさておいて、嬉しそうに話すアリスの表情を見て溜め息をつき、「ホント、面倒くせぇ奴らだな」とぼやきながら中也は身支度をし始めた。
『私の指示が入れ替わってしまったせいで中也が其方に行っている。』
「うん。ポートマフィアの中にもパラサイトが懲りずにまた侵入してるみたいだね。」
『帰ったら洗い出しを頼めるかい?』
「高くつくよ?」
『構わないよ。アリスの言い値で。』
「……。治兄は私に甘いよね。」
『そうだね。その理由を判ってくれれば助かるのだけど。』
「?」
相手に見えるわけなど無いのに首を傾げるアリス。
『まあ、この話はその内ね。それで?先刻言っていた可笑しな事って?』
「!ああ…えっとね。そういえば、私は泊まり込みの仕事って聞いてなかったって思って。」
『説明が無かったのかい?』
「うん。まあ履歴書を届けた時も預かりますしか言われなかったし。」
『採用の連絡は?』
「あったよ。その時も、昨日の日付と時間の連絡のみで…仕事も『簡単な仕分け作業』とだけ言われただけなの。」
『へぇ。』
「……バレてるのかな。」
『恐らくね。』
「何で気付かなかったんだろう…あ。だから昨日、寝込みを襲わ…。」
『一寸待って。』
「!」
太宰の一言にビクッと肩を上げながら口を閉ざすアリス。
先程と同じ様に太宰が黙ってしまうのではないだろうか。