第14章 自覚(太宰side)
「んで、冒頭に戻るんだけど。私は4週間前、+++と情報を取引するために出向いたところ『スパイ』と言い掛かりを付けられて襲われた。」
「…で?」
「私にとって、マフィアに追われること自体は大したことではない。でも、きちんと仕事する積もりで赴いたのに別の事で利用されたことは赦せないんだよ!」
湯呑みをダンッと、乱暴に置いて言い切るアリス。その顔は不機嫌そのものだ。
それに対して溜め息しか出ない中也。
「そういうことか。太宰が依頼する前から自分の為に調べてたんだな、お前。」
「そう。それで、治兄にここに潜入出来るような人間を貸して欲しいって言ったんだけど、来たのがまさかの中也兄だったってワケ。」
「オイ。一寸待て。何だあ?俺じゃ不満だって云うのかよ!俺だって忙がしいのに時間を割いてきてんだぞ!?」
「中也兄……戦闘向きだけど、スパイ向きじゃないもん。」
「………。」
自覚があるだけに反論できずに口をつぐむ中也。
「お陰で私まで此処に居なきゃいけなくなったし。ハァ。」
「お前もあんまり向いてないだろ?何だよ『ナカヤ』って。捻りが無さすぎだろうが。」
「仕方ないじゃん。他人の名前になんて興味ないから他に浮かばなかったんだもん。そんなこと言うなら中也兄が考えれば良かったじゃん!」
「それはダルい。」
「じゃあ文句云うなー。」
ムッとしながら中也に云うアリス。
「兎に角!此処には『横取りした銃器』が誰にも見付からずに存在している筈なんだよ。それが運び屋の手に渡って、抗争している戦場に行き着くまでに何とかしなきゃ。」
「……。」
「何?どうかした?」
コテンと首を傾げる。
「お前の仕事依頼は『荷物の発見』じゃあなかったのかよ?」
「そうだよ??」
「何で抗争の事を気に掛けてんだよ。」
「?治兄が行ってるんでしょ?その現場に。」
サラリと云うアリスに中也は眉をひそめる。
無意識か?
「……そんなに太宰の事が心配か?」
「!」
中也に問われてハッとした顔をするアリス。
心配?
私を殺そうとした治兄を?
「……。」
黙り込んでしまったアリスを見ながら溜め息をつく中也。
「自覚なし、か。まだまだ時間掛かりそうだなあ…太宰。」
小さく呟いた声はアリスの耳には届かなかった。