第14章 自覚(太宰side)
「成程な。賢いぜ。まあ此処は本当に良い。俺は一週間契約を更新して3週目なんだが、3食喰えて寝床もある。おまけに一週間の給料は5万ときたら正に天国だな。」
「へぇー。お兄さんはそんなに前から此処で働いてるんだね。」
「俺みたいな年寄りにもお兄さんって。随分、口が達者だなあ!」
「そう?まだ30前くらいかと思ったけど。」
「!?」
味噌汁を飲みながら男に云う。
中也は黙って男の顔を見るもアリスが云うような年齢には見えない。
若く見積もっても35、6だろうか。
だが、アリスが指摘した瞬間、男は固まっていた。
「……本当にそう見えるか?」
「うん。なんで?」
「いや……その。何でもねぇ。」
アリスから視線を外し、食事を始める男。
「ねぇねぇ、お兄さん。」
「なっ…何だ?」
「この会社ってずっと前から在ったの?」
「えっ…いや…詳しくは判らんが、それならもっと前から此処で働いてると思うから最近出来たんじゃねーか?」
「お兄さんが最初に働いた時もこんなにいっぱい人が居た?」
「いや…最初はほんの数人…10人も居なかった。」
「そっかー。」
「……何でそんなこと聞くんだ?」
「ん?お給料、ちゃんともらえるか心配だったから。でも、最初は10人くらいだったのが今は50人くらい居るってことは信用が有るからでしょ?だから心配しなくても大丈夫かなって今、安心したところ。」
「そっ……そうか。」
ニッコリ笑って云うと中也の方を見る。
「あ、お兄ちゃん!フルーツ頂戴!」
「あ?……ほら。」
「わぁい!有難う♪」
デザートのフルーツ、苺を美味しそうに頬張るアリス。
これだけ喋っておきながら既に自分の分は完食していた。
間髪入れず、中也も味噌汁を飲み干して完食する。
「食堂混んできたしお部屋に戻ろう?」
「ああ。」
アリスが食器を重ねて一纏めにする。
お盆を持とうとしたところ、中也が先に抱えて運び出してくれた。
「行くぞ。」
「うん。お兄さん、またねー。待ってよーお兄ちゃんー。」
男に別れを告げて中也の後ろを慌てて追いかけるアリスを、男は見えなくなるまで見送った。